団体交渉
会議室内に悲鳴が響いた。
「立ち上がらないで下さい、立ち上がった人は同じように撃ちます」
みんな動揺して硬直している。ボーガンでミライボの人事部長の額を撃ちぬいてやった。
「これでもう共感トーク出来ないですね。前頭葉ダメになっちゃったから」
気の利いた一言を言ってみても芸人崩れは笑わない。そんなんだから、売れないんだ。こんなおもろい場面出くわしたらネタ拾いにいけよ。
皆を威嚇したまま、テーブルの中央の席に座る。座り位置の構造が討論番組みたいだな。
「ちゃーちゃーちゃっちゃっちゃーん」
討論番組のテーマを大声で歌ってみるが、ピクリとも笑わない。
「じゃあ、団体交渉始めます。FQWの千葉さん」
あったこともないおじさんが怯えてこっちを見ている。
「なんでテレワーク導入しない?」
「当グループ全体の8割の部署でテレワークを導入して」
届く場所に手があったので、斧を振り下ろす。指が何本かすっとんだ。
「そういう詭弁はやめて、本音言おう」
哀れ千葉さんは手を抑えながら蹲っている。
「ダメだね、みんな緊張しちゃって。時代錯誤だけど、飲みにケーションだ。ちょっとひっかけてから話そう」
順番にペットボトルに入れた興奮剤と精力剤を混ぜたドリンクを飲ませていく。皆の瞳孔が開いていく感じがする。
「さぁ、議論再開。千葉さん、なんでテレワークしない?」
「情報漏洩が起こると数十億円単位で飛ぶの!」
「それが怖い?」
「そうよ!」
「はい、じゃあ、そこの活動家!どう思った!」
労働組合の人も顔に凶気が表れている。
「今日までに100人以上感染者を出してますよね!10億円を100人で割ると1000万ですよ。1000万でコロナに感染させてるんですよ!」
「そんなの結果論じゃないか!」
「じゃ千葉さん、いくらだったら社員の感染よりテレワーク選ぶの?」
「こんなヤツらに払う金なんて無ぇわ!」
「はい!じゃあ、こんど、そこの芸人崩れ!」
「崩れてないわ!」
「返しが面白くない!今の聞いてどう思う?価値ないと言われて」
「悔しいです!」
「1000万の価値ないってよ。目指してたコンテストの賞金くらいの価値は、やっぱりお前には無いんだってよ」
「それは関係ねぇだろ。ふざけんなよ」
立ち上がった芸人崩れは、下半身も立ち上がっており何故かもう脱いでいた。
「そうだよ、そういうチンコを出せる芸風こそが芸人だよ」
芸人崩れが息荒く哀れな千葉さんに近づいていく。そうだ、おもれぇ。もっと煽ろう。
「芸人崩れ、どうしたいの?」
「ぶっとばしてぇ」
「違う!カッコつけるな!やりたいんだろ!?」
「やりたい!やってやる!やってやる!!」
千葉さんは抵抗むなしくあっという間にズボンを脱がされる。千葉さんの立派な一部も隆起していた。芸人崩れは手を添えながら千葉さんの緊張した穴に挿れる。男と男が重なって嗚咽している。バッカじゃねぇの、おもしれぇ。腹を抱えて笑ってしまう。
「はい、志村さん!どう思うの?クライアントって言っても親会社でしょ?どう思う?」
志村も気づいたら全裸になっていた。
「俺だって、板挟みなんだよ。高卒だから馬鹿にしてるんだろ。無理な目標ばっかりふりやがって。やってやるよ!」
志村はFQWの女性社員を無理やり犯す。女性社員も志村の首を絞めて顔を殴って応戦している。バカみたいだな、面白い。
名前も知らないこの女性社員は、たまに会社で見かける。いつもミライボの人間を汚い目で見ていた。同じエレベーターには乗らないように。すれ違う際は呼吸を止めて。こいつらは自分と違って、感染リスクが高い汚い人間だ、と言わんばかりの表情で避けている。その汚い人間たちからの搾取で儲けた金で生活しているのに。
志村は女ったらしだ、ミライボの女とかたっぱしから付き合っている。別に独身だから問題ないが、マスクなしで濃厚接触しまくりで、実際に志村は汚い。きっとコロナに感染している。
汚い志村に「上の人間」だったはずの女が汚されている。滑稽な姿だ。
もはや、全員が裸になって入り乱れている。性器と性器の出し入れや殴りあい、罵りあいが溢れている。
「これが本当の団体交渉」
せっかく気の利いた事言ったのに、芸人崩れはもう死んでいた。
「朝まで生でね!」
もう誰も聞いちゃいない。くっだらない、バッカみたい。楽しかった。そっと包丁を自分の首にあてて目を閉じた。
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