第3話 喪女と独女
金曜の夜20時は、料理の姐御、りょうこさんの生配信がある。料理動画とは別に、お酒を飲みながら、料理のお話だとか日常生活の愚痴だとか、ぐだぐだと色々なお話をして、視聴者を楽しませてくれるのだ。
だから私は、金曜日の夜は自然と、仕事を早く切り上げてまっすぐに家に帰るようになっていた。
今日も、ハイボールを片手にPCを立ち上げ、YouTubeのチャンネルを開いて、スタンバイ。おつまみはもちろん、りょうこさんの動画を見て作ったものだ。
ちなみに、今日は無限キュウリと無限モツ煮。足りなかったときの為に、チャーシューも用意してある。どんだけ食うんだよって話ではあるが。
生配信を観ていると、まるで、りょうこさんと一緒に飲んでいるみたいで楽しくなるから、家で食事をする習慣が出来た。
今までは夜ご飯と言えば、コンビニ飯とか牛丼とか宅配ピザとか、とにかくカロリー爆弾てきなものが多かったんだけど、自炊をするようになったことで、少しだけ健康的な食事になったような気がする。多分。
夜の20時。待ちに待った配信開始時間だ。いつものお決まりの挨拶をして、りょうこさんの配信が始まった。
いつものように、よく通るテンションのやたら高い美声で豪快にしゃべりながら、これまた豪快にグラスの酒を飲み干していく。
私も負けじとハイボールを飲んでいく。実は私はもともと、ビール派だったのだけど、りょうこさんがハイボールを愛好しているということを知ってからは、ハイボール派に寝返った。
糖質とかそういうのを考えると、ハイボールのほうがダイエットにもいいらしい。なんだか最近は、自然とそういうことまで考えるようになっていた。
しかし、りょうこさんは美しい。
あの細いウエストのどこに、あんなにたくさんに酒が吸い込まれていくのだろう。本当に不思議なのだけど、りょうこさんの飲みっぷりを見ているだけで、私はなんだか癒されてしまうのだ。
「はぁ〜」
りょうこさんは時折ため息混じりに悪態を吐いたりもする。その声がまた色っぽくて素敵なのだけど。
私は次の瞬間、りょうこさんの口から信じられない言葉を聞いてしまったのだ。
「なんだかんだ言ってもね、私は彼氏いない歴イコール年齢ですからね〜。独女、ばんざいっ!」
そんなことを言って笑いながら、またぐいっと酒を飲む。
私は驚きで、ついつい箸を落っことしそうになってしまった。
りょうこさんに彼氏がいないだなんて、そんなことがあるものだろうか。あんなに美人なのに。
YouTuberとか人気芸能人あるあるの、リップサービスみたいなものだろうと、疑ってかかったのだけど、話を聞けば聞くほど、非モテあるあるが妙にリアルで。
「まじかよ……」
別にだからなんだってわけではないのだけど、なんだか妙に親近感が湧く。いや、りょうこさんみたいな美人の人気者にそんなことを思うのは大変失礼だってわかってはいるのだけど。
でもなぜなんだろう。なぜか浮き足つ心が、この日の酒をますます進ませてしまうのだった。
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