第4話 喪女と美女

 私とりょうこさんとの共通点は、彼氏がいないということだけではなかった。あの配信の日からわずか数日後のことだ。さらに驚くべきことが起こってしまったのだった。


「本日からこちらの部署に異動になりました。天野涼子あまのりょうこです。どうぞよろしくお願いいたします」


 いつものように、眠たい目をこすりながら出勤した月曜日。朝の朝礼で爽やかに自己紹介した美女は、まさかの、毎週動画で目にしていた、「料理の姐御 りょうこ」だったのだ。しかも、動画で見るより数倍美しい。


「りょ、りょ……」

「小森さん、どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないです」


 課長に怪訝な目で見られたので、慌てて平静を装う。りょうこさんは、会社には配信のことは言っていないだろうし、迷惑をかけてはいけない。


 しかし、今まで全く気が付かなかった。まさかりょうこさんが、私と同じ会社の社員だったなんて。


 こう見えて、私はなんだかんだ大手の企業に勤めているから、同じ会社だからといって存在を知らなくても、まったく不思議はないのだけど。


「じゃあ天野さんは、小森さんの隣のデスクなので。小森さん、しばらく諸々サポートお願いします」

「はい」


 あ、任されてしまった。


「小森さん、よろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」


 美女に頭を下げられて恐縮しながらも、異動に伴う諸々の雑務について、サポートする。一応、事前に新しい人が来るとは知らされていたから、なんてことはない。


 うちの課のPCの設定とか、コピー機の設定とか、そういうやつ。各種アカウント設定なんかをして、業務に必要な共有ファイルの場所なんかを教えていたら、あっという間に昼休憩の時間になった。


「とりあえず、休憩しましょうか」

「はい、ありがとうございます。小森さん、お昼、よかったら一緒にどうですか?」


 なんと、りょうこさんにお昼を誘われてしまった。業務だったらなんとも思わないけれど、お昼となると、ちょっとだけ緊張してしまうのは、なぜだろう。


 とりあえず、天気もいいし、お弁当を持って、オフィスビルの外の中庭にでも行こうということになった。


 うちの会社は、都会のど真ん中にあるにもかかわらず、なぜかオフィスのそばにポッカリ空いた芝生のスペースがある。


 まさか社員のお昼スペースのためにわざわざ用意したわけじゃないとは思うけれど、うちの社員は、学生か子供連れの家族がピクニックでもするかのように、自前のタオルかなんかを敷いて、芝生の上で食べる人も多い。


 りょうこさんと私も、芝生にハンカチを敷いて、それぞれのお弁当を広げた。わーい、ピクニックデートみたいだ。


 まさか、あのりょうこさんと、今こうして、一緒に芝生でお弁当を食べることになるなんて、信じられなかった。


 しかし、驚くのはまだまだこれからだったのだ。

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