第2話 喪女と料理
腹の虫が夜の8時を告げる。相変わらずひとりぼっちの土曜日。しかし、今日の私は今までとはひと味違う。なぜなら、冷蔵庫の中にスーパーで買ってきた鶏肉があるから。
料理の姐御「りょうこ」と出会ってから、1ヶ月が経っていた。
今日はりょうこの動画で観た、美味しそうなグリルチキンを自分でも作ってみようと思って、張り切って鶏肉を買ってきたのだった。
りょうこは料理系YouTuberなのに、酒飲み系YouTuberでもある。『危ないから良い子のみんなは真似しちゃダメよ(はぁと』なんて、時々つやっつやのお色気ボイスでしゃべりながら、いったん調理が始まるとクソ高いテンションでしゃべりまくりながら、でっかいグラスでガンガン酒を飲み干していく。
ついでに、おっぱいはでかいし、ウエストはめちゃくちゃ細いし、わざわざそれを強調するような服を着ている。エロい。
あのスタイルの良いボディのどこにあの酒が入っていくのか、本当に不思議でならないのだけど、とにかくその飲みっぷりと、できあがる料理と、両方から目が離せないのだ。
腹が減ってそろそろ我慢の限界だ。私は、りょうこのおっぱいを堪能、じゃない、グリルチキンの作り方を復習することにした。工程は昨日も動画で観ておいたけれど、私は頭が悪いので、こうして直前にまた見返さないと作れないのだ。
この日のために、オレガノなんていう、初めて買う調味料も買ったし、普段眠らせていたトースターもちゃんと掃除しておいて、準備はばっちりだ。
早速、姐御の動画のとおりに、調理を開始した。
オリーブオイルを塗って、黒こしょうにオレガノ、塩をまぶして、オーブントースターに入れて……。
姐御の言葉は、料理初心者の私にもわかりやすく届いた。人間は8%くらいの塩分濃度を美味しいと感じるらしいけど、酒飲みの姐御は、10%くらいが好きらしいと言っていた。
私も姐御の好みに合わせて、私も10%の塩分濃度にしてみた。
あっという間に焼き時間が過ぎて、良い匂いがしてきた。慌てて肉を取り出す。
動画だと包丁で切っていたけど、喪女だからそのまま皿の上に載せていいだろう。一人でナイフで切っていただくことにする。
姐御はハイボールを飲んでいたけど、私は冷蔵庫にあったビールをお供にする。これだからデブるんだよな、なんて思いながら、腹の肉をつまむ。
明日からは、ハイボールにしようかな。そんなことを思う。
焼きたてのグリルチキンをフォークでおさえ、ナイフを入れる。食事でナイフとフォークを使うなんて、すごく久しぶりだ。それはともかく。
皮がパリッパリだった。
……くっそ、うますぎる。
一人きりの静かな部屋に、パリ、パリ、もしゃもしゃ、という、私の咀嚼音だけが響く。それはしあわせの音だった。
でもなんとなくBGMがほしくなったので、姐御が食べているのを観ながら一緒に食べた。
でも、なんでだろう。ぽた、ぽたと、ちゃぶ台の上に雫が垂れる。
ほんとに、なんでなんだろう。
姐御のつやつやの声が気持ちよく響いている。それだけが救いで。
私は貪るようにグリルチキンを食べた。チキンと米とビールをおかわりしながら、姐御の動画を、お代わりし続けたのだった。
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