第2話 豊島優希のルーティンと妹

ピピピピッー ピピピピッー ピピッ 


寝起きの身体をゆっくりと起こし目覚ましを切る。

カーテンの隙間から朝の日差しが溢れていた。


「やべー、寝落ちした」


そう言ってベッドに転がっていたスマートフォンを充電器に接続する。

ゲームの途中で意識が飛んだようだ。


やっぱ試合の後はきついな…


そんなことを思いながら、ベッドから立ち上がると洗面台に向かい、顔を洗い、歯を磨く。


今日は日曜日。学校は休みだ。

時刻は午前6時。


日課のランニングをするためにトレーニングウェアに着替えて家を出る。

耳にイヤホンをはめ、スマートウォッチで音楽を再生。

軽く体をほぐして出発する。


優希は朝のこの時間が好きだった。

ゆっくりと街が起き始める瞬間を肌で感じることができるからだ。


リズムに乗って一定のペースで走り続ける。

20分ほど走っていつもの公園に到着すると、腰のポーチからボトルを取り出し水分を補給する。


「優希くん、おはよう」


ベンチに座って休憩していると突然声をかけられた。

声の主に目を向けると、トレーニングウェアに身を包んだおじさんが立っていた。


「おはようございます。今日もいい天気ですね」

耳からイヤホンを取り外し、返事をする。


彼の名は森谷といい、優希と同じく朝のランニングを日課としている人だった。

よく朝の公園で顔を合わせるため、初めは挨拶をする程度だったが、今では軽い雑談をする仲になっていた。


「ここ数日気持ちのいい天気が続いているね。ランニングするにはもってこいの天気だよ」


森谷はそう言って口に水を含む。


「そうですね。予報によるとまだしばらく晴れが続くそうですね」


そう言って二人で空を見上げると、雲ひとつない空が広がっていた。



5分ほどたわいもない会話をし、帰路へ着く。

一定のペースで走りながら昨晩のゲームのことを思い出していた。


ギルドのメンバーはいつも通りだったな。

昨日いきなり落ちちゃったからパーティーメンバーに迷惑かけただろうな。

後で謝らないとな。


ギルドのメンバーと新ボスを周回しているところまでは覚えていたが、途中から記憶がない。

次はどの装備使ってみようなど考えていたら、あっという間に家に着いた。


浴室へ向かいシャワーを浴びて汗を流す。


さっぱりしたところで、朝食をとるためにダイニングへ向かうと先客がいた。


「お兄ちゃんおはよう」


眠そうな目を擦りながら妹の葵(あおい)が声をかけてきた。


「ああ、おはよう。日曜なのに早いね。」


休みの日は9時過ぎまで寝ている葵が珍しく早起きしていたことに驚きつつ返答する。

現在の時刻は7時20分。


「今日は友達と遊び行くのー」


そう言って、葵はあくびをしながらソファーに腰掛けてテレビを起動する。

まだ完全には起きていないらしい。


ふと違和感を覚え葵の腕に注目する。

そこには50㎝ほどのぬいぐるみが抱えられていた。


「そのぬいぐるみ何って名前だっけ」


思わず尋ねる。


「ん?これ?ダイオウグソクムシだよ。可愛いでしょ。」


そう言って両手で抱えあげ、満面の笑みでこちらに見せてくる。

これは相当気に入っている時の笑顔だ。下手なことは言うまい。

瞬時にそう考え最適な返答を導き出す。


「そ、そうだね。可愛いね。うちで飼いたいくらいだ。」


わずかに静寂が訪れる。


「何言ってんの。ぬいぐるみだからいいんだよ。」


葵の目つきがじとっとしたものに変わった。


やばい間違えたか。なんと返すのが正解なんだ。

決勝戦以上の緊張が走る。


葵はダイオウグソクムシが好きなのか?ぬいぐるみが好きなのか?いや、甲殻類が好きなのかもしれない。もしくは深海生物か。


そんなことを考えていると、葵は呆れたような目を向けて言った。


「今変なこと考えていたでしょ。お兄ちゃんには分からないと思うよ」


これで話は終わりとでも言うように、葵はテレビへと目線を戻した。


うん分からん。女心はよく分からん。

てか、葵はエスパーか。妹ながら恐ろしい。今呆れられたよね?

兄としての尊厳を守らねば。どうしよう。どうしよう。


そして閃いた。



タカアシガニのぬいぐるみ買ってこよう。








葵は中学一年生で、身長は155㎝。同級生の中では高い方だ。

スラッとした体はスタイル抜群で、クリッとした瞳と綺麗に切り揃えられたボブの髪は、幼さと大人っぽさを両立させていた。

成績も良くクラスの皆に慕われているそうだ。

入学してすぐ何人かの男に告白されたようだが全て丁寧にお断りしたらしい。


うん。めちゃくちゃ羨ましい。大事だからもう一度言う。めちゃくちゃ羨ましい。

俺もモテたいなー。どうしたらいいんだろうなー。


そんなことを考えながら簡単に朝食を済ませ自室に戻る。


「さて、ゲームでもするかな」


充電を終えたスマートフォンを手に取りゲームを起動する。


こうして彼の1日は始まるのである。

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リアルは男、ゲームは女 気づいたら二刀流。 @charipizza

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