リアルは男、ゲームは女 気づいたら二刀流。
@charipizza
第1話 豊島優希という男
N県のとある体育館。男子柔道の県大会決勝が今終わった。
「勝者は豊島優希!!」
熱気のこもった体育館に声が響く。
男はその声に応えるようにゆっくりと息を整え一礼をしてその場を後にした。
(やっべー…優勝しちゃったよ)
更衣室に向かう途中誰もがチラッと彼をみてササッと道を譲る。誰も話しかけてくるものはいない。
(なんか避けられてね…)
目があったと思ったら露骨に視線を逸らされた。
(まあいつも通りだな…)
孤独感から逃げるように急ぎ足で更衣室へと向かった。
彼が避けられている理由はその見た目にあった。
身長190㎝、体重90キロ、鋭い目つき、坊主、という高校一年生とは思えない体格をしていたのだ。服の上からでも良くわかる鍛えられた肉体は、他人からしたら恐怖の象徴であった。
高校入学当初から廊下を歩けば誰もが道を開け、先生に後ろから声をかけた時は「ヒィエッ」と声を上げられ、後退りをされたという経験を持つ。
(早く帰ろう…)
更衣室で手早く着替えを済ませ、会場に戻ると顧問の谷口先生が声をかけてきた。
「優希!探したぞ!よくやった!お前なら優勝できると信じていたぞ!今日は先生の奢りだ!パーっと打ち上げだ!」
谷口先生はいわゆる熱血教師であった。これだと決めたらそこに一直線。柔道も高校入学後先生に勧められて始めたのだ。
(ちゃんと見てくれる人がいるのは嬉しいな)
帰るつもりでいたが先生の誘いに乗ることにした。
「いいんですか?俺めっちゃ食べるんで、お財布空にしちゃいますよ」
ちょっと冗談っぽく言ってみる。
「気にするな!こんな日に金を使わなくていつ使うんだ!先生に任せとけ!」
そう言って胸を叩く谷口先生。
これがイケメンってやつかと思った。
その翌日から白米だけの弁当を食べている谷口先生が目撃されたという。
「あー疲れた」
膨らんだお腹をさすりながらベッドに身を投げ出し、携帯をいじる。
「今日アップデートあったんだ。ログインしなきゃなー」
彼には最近ハマっているゲームがあった。
いわゆるRPGなのだが、特徴として他のゲームよりかなりリアルなアバターを作れるというものだった。
「アプデ完了!誰かインしてるかなー」
ワクワクしながらゲームを起動する。
その画面に映し出されたのはとても可愛らしい女の子だった。
身長は153㎝、髪は黒髪ストレートのロング、バランスの取れたスタイル、フリフリの衣装に身を包み、その美貌は誰もが振り返る。
そう。優希のアバターだ。ちなみにアバター名は”ユキ”だ。
優希は所属してるギルドのチャットに書き込みを行う。
ユキ“こんばんは!”
すぐに返信が来る。
三角ナプキン ”ユキちゃんこんばんは!!今日もかわいいね!”
三角コーン ”ユキさま!待ってたよー”
道端の石 ”ユキちゃんこんばんは!とりあえず結婚しようか”
ギルドのメンバーから次々と返信が来る。
優希は続ける。
ユキ”ついにアップデートが来ましたね。今回のボスは強そうですね…”
返信が来る。
三角ナプキン ”マジで強い!ユキちゃんは俺が守る!だからとりあえずパーティー組もう”
三角コーン ”ユキさま!私にどうかあなたと共に戦う機会を与えてください”
道端の石 ”ボスめっちゃ硬かった。そんなことは置いといてとりあえず結婚しようか”
今日もギルドは平常運転であった。
ユキ”皆さん頼りにしています!”
ユキのアバターが可憐に微笑みながら答える。
何人ものプレイヤーが画面の前で失神したという。
そう。現実の自分の体型をコンプレックスに持つ彼は、ゲーム内で自分と全く異なる姿を求めたのだ。その結果がこれだ。
ちなみに他のプレイヤーは中身が男だとは気づいていない。
誰にでも丁寧な口調を心がける可憐なる少女が、まさか男だとは思うまい。
優希は最近になり他のプレイヤーがユキの中身を女性だと信じてやまない状態であるということを知ったのだが、今更言い出すことができずにズルズルと時間だけが過ぎている状況だ。
これはリアルはごっつい男子高校生、ゲームでは華奢な女の子である豊島優希の日常である。
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