右手に花束、左手に万年筆
金森 怜香
花と万年筆
私は背中の真ん中くらいまで伸びたダークブラウンの髪をポニーテールに結い上げる。
「さてと、やりますか」
私は、新聞紙を広げた床に買ってきた花束をそっと置く。
愛らしいガーベラの花、蕾の多いカーネーションに色とりどりのストックと純白のカスミソウ。
そして、メインの花は……。
「バラはトゲがあるから気をつけないと。でも、バラはやっぱり八部咲きくらいが好きだなぁ」
深水といって、花に水を吸わせて元気にする作業をする。
まず、花材となる花たちの葉っぱなどを整理する。
下の方に生えている葉っぱなどは、アレンジの際に切ってしまうので、あらかじめ取り除く。
その後、花の茎を斜めにカットする。
花の茎にある導管をなるべく潰さず、できるだけ面積を大きく切った。
その方が、花たちが水を吸いやすいからだ。
深みのあるプラスチックカップに水をたっぷりと入れる。
そして、花材たちを入れる。
ある程度の時間が経ち、葉がピンとして花も勢いがあるように感じた。
深水完了である。
添える緑ものを少し短めに切り、カーネーションは緑ものより少し長めに茎を切る。
カーベラはカーネーションより気持ち長めに茎を切り、バラは少しだけ茎を切る。
「花材的に、今日はオーソドックスな花瓶のラウンドアレンジにしようかな」
私は花瓶に、花を上から見て美しく丸い形になるように花を花瓶へと挿していく。
重心はなるべく中心に。
真紅のバラに、オレンジや黄色のガーベラ、カーネーションは少し変わった色合いのオレンジや赤系の物を用いた。
丸弁咲きのカーネーションを使ったので、柔らかく仕上がったのには嬉しくなる。
緑ものに、ミントを用いる。
ハーブとして香りつつも、緑色で添えてあるだけで面白いほど引き立つのである。
ストックはあまり日持ちしないが、それでも差し色として少し違う色身を足している。
カスミソウを半分は純白のままで、半分は小分けして、染料で染める。
花を引き立てるために、緑や黄色に染めてみるととても馴染んだのが印象深くなった。
「なんだかすごく満足いく仕上がりになったなぁ。記念に詩でも書きたいな」
私は下に敷いていた新聞紙に切った茎などを包みながら、詩を考える。
万年筆と原稿用紙を持ってきて、花を前にウンウン唸った。
「さて、どうするか……」
赤々と
輝き放つは
女王様
真紅のドレスをまとって
美しい従者を連れ添って
ますます煌々輝いた
「この続きはどうしようかな……」
私は紅茶を飲みながら、詩の続きを考えることにした。
花を前にお茶を飲みながら詩を書く。
我ながら、なんとも贅沢な時間だと思う。
至福の時、というものだろう。
私は花が好きだし、学生時代の授業で華道を習っていた。
同じくらいの頃、私は詩にもよく親しんでいた。
今でも、詩も小説も好んで親しむし、花も大好きだからたびたび華道していたころを思い出して生け花をする。
生け花は試行錯誤の連続であった。
お世辞にも、私には美的センスという物があったとは思えない。
最初の頃は全くといって良いほどちぐはぐになってしまった生け花だった。
少しずつ試行錯誤を繰り返した。
そして、ようやく人様に見せても何とかなるレベルになった。
それまでには一体、どれだけの年月が経っただろうか……。
詩もそこまで良いセンスはしていなかったと思う。
だが、様々な詩集を読んで覚え、少しずつ成長していったと自負できる。
詩を愛する友人がいたのも、良い成長につながったと思う。
私は、目の前の花を見つめた。
花からのメッセージを受け取るために。
赤々と
輝き放つは
女王様
真紅のドレスをまとって
美しい従者を連れ添って
ますます煌々輝いた
従者たちは謳う
我が女王の美しさよ
永遠なれ、と
女王はポッと
頬を赤らめる
ドレスと同じ赤い頬
笑いながら女王は
従者の影へと
隠れゆく
照れた女王を
癒すは紳士
爽やかに香る
香りを嗅いで
女王はふわりと
芳しく香る
「こんなところかな」
私は出来上がった詩に満足げに微笑んだ。
「明日、あの子に詩を見せよう」
私は少し楽しみになった。
右手に花束、左手に万年筆 金森 怜香 @asutai1119
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