第10話 『夜の訪問者』

 さて、午前3時です。


 こんやも、寝られない方がいらっしゃいますか?


 やましんの、後ろのプレーヤーでは、プッチーニさまの『グローリア・ミサ』が鳴っております。やましんちは、仏教ですが、合唱団にいたものですから、むかし、この作品も、歌わせていただいたことがありました。プッチーニ先生、思わぬ半音階進行や転調がありまして、若がきとはいえ、おみごと。


 昨日のことのようですが、もう、20年まではゆかないけど、昔です。


 さて、それよりも、はるかまえ、45年ほど、前の話です。


 学生時代を送った街は、けっこう大都市ですが、でっかい名高い温泉があります。


 さて、そのばん、深夜2時過ぎ、本を枕に、うとうととしておりますと、向かいの部屋の一つ年上の同級生さまが、『おい。おきてるか? へんなのがいる。二階の窓をてで叩いたんだ。はっきりみえた。』


 すると、街灯の明かりに、黒い影がふたつ、道路に立っているような。


 『さけ、飲みに行こう。』


 『いや、もう、しんやですし。』


 『あんたたち、A大学か?』


 『いえ、B大学です。』


 『じゃ、いいじゃん。(なにそれ、落ち目とはいえ、長年張り合った中だ。)飲みに行こうぜ。』


 『いや、下宿のきそくがありますから。』


 『なんだ。つまんないなあ。』


 ふたつの影は、居なくなりました。


 

 『おい、あし、あった、かな?』


 『いやあ、もう。こあかったあ。』


 やましんの、心理眼は、人間だろうと、言っていますが、二階の窓を叩く手が見えたと。


 しかも、足掛かりは、ないです。あそこは。


 ワンピースみたいに、手が伸びればべつですが?


 絶対間違いない、と、彼は主張します。


 もし、一緒に行ってたら。どうなった?


 さあ。どうでしょう。


 いずれ、あまり、よい結果ではないかなあ?


 夜の街は、勉強しませんでした。


 いや、するべきであった。


 あれにより、やましんの、運は、転落したのではないのか?


 さて、3時半です。


 まどの、ノックはありません。


 寝られそうですかあ。


 さいきん、なんだか、寿命縮むような、夢が多いです。


 こんやは、これで、おしまい。


 


 






 このおはなしは、かなりむかし、書いたことがありましたが、まあ、再放送みたいなものでし。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る