第8話 山小屋生活から王城生活へ!?

「ひ、姫様!?」

「だってうちの食事、おいしくないんですものっ」

「し、しかし城のシェフは皆一流で、あれ以上の料理を出せる者はこの国には」

「……いいえ。いるわ」


 リディはそう言い切った。

 何か嫌な予感がする。


「……い、いったいどこにいるんです?」

「ここよ。このレイアって男の料理の方が100倍おいしいわ」


 やっぱりいいいいいいいい!!?


 いやいやオレはそういうのはもういいんだよ。

 ここで平和に暮らせればそれで満足だし、出世とかそういう面倒なこととは無縁でいたいのに!!!


「そ、それは姫様が空腹だったせいでは?」

「そんなことないわ。私の舌を疑うっていうの!?」

「い、いえ! 決してそういうわけでは……」


 護衛たちは皆、どうしたものかと困惑している。

 こんなどこの馬の骨かも分からない男を城に連れていくわけにもいかないだろうし、そりゃそうだろう。


「私、レイアと一緒じゃなきゃ帰らないわ」


 リディはそう言うと部屋の中に戻り、席について朝食を食べ始めた。


「……あ、あの」

「なんでしょうか」

「こんなことを突然お願いするのは非常に心苦しいのですが、どうか姫様と一緒に来ていただけないでしょうか。姫様を連れ帰れないなんてことがあれば、我々は良くてクビ、悪ければ――」


 まあそうだよな。

 でも3年も自由に暮らしてきて、今さら城の料理人……。

 それに顔を見られれば、オレがオータム家の人間だとバレてしまう。


 ――いや、待てよ。

 いっそ事情を説明してしまえば、その上で雇ってもらえれば、オータム家の人間も下手なことはできなくなるはずだ。


 実はオータム家は、今の王様とはあまり相性がよくない。

 ……のだが、なぜかオレは王様に気に入られていた。

 前世の記憶が戻ったことで、年齢の割に話ができるヤツだと思われたのかもしれない。


 うまくいけば、もっと堂々と料理の研究に没頭できるかもしれない。


「……分かりました。オレも王城へ行きます」

「おおお! それは助かる。恩に着ます!」

「――というわけだからリディ、城に帰ろう」

「……まあ、レイアがそう言うなら。分かったわよ」


 こうしてオレは、身支度を整えて必要なものを鞄(兼アイテムボックス)に詰め込み、小屋を出ることにした。


 ◆ ◆ ◆


 城に着いたオレは、護衛の1人に連れられて厨房へと向かうはずだった。

 しかしレイアに強引に手を引かれて向かった先は――


「ってそこ王様の執務室では!?」

「そうよ。父様に紹介しなきゃ」

「いやいやいやいや。ただの料理人を王様に紹介っておかしいだろっ」

「誰がただの料理人だなんて言ったのよ」

「は? でもリディはオレの料理が食べたくてオレを連れてきたんだろ?」

「そうよ。だからレイアの仕事は、私の相手をすることよ!」


 はあああああああああああああ!?


「だって料理人になんてなられたら、忙しくて相手してもらえないじゃない」

「そ、そりゃまあ、仕事だし」

「そんなのつまんないわ。父様、入るわよ」

「……リディか。入れ」


 リディは王族の娘とは思えない勢いでドアを開ける。


「父様、紹介するわ。レイアよ。山で迷っていた私を助けてくれたの。料理がとっても上手なのよ」

「……レイア? レイアじゃないか! 最近顔を見せないから心配していたよ」

「お久しぶりです、王様」

「へ!? レイア、父様と知り合いだったの!?」


 オレはリディとの件やオータム家を追放されたこと、しばらく山小屋で生活していたことなどを正直に説明した。

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