第9話 料理人になるはずが王族になってしまった
「なんと。実の息子をそんな理由で追放などありえん」
「本当、ひどい話ね! だいたい、レイアのスキル【美食】は全然無能なんかじゃないわ! だってあんなにおいしい料理が作れるのよ!?」
「いやあ、あはは……」
まあ、家で嫌われてたのはスキル獲得より前からだけどな!!!
「それでレイア、私の娘を助けてくれたそうだな」
「ええと。たまたま使っていた小屋を訪ねてきて……」
「そうか。つまりはリディの命の恩人ということだな。これはぜひとも礼をしなければ。……どうだ、よければ私の息子にならないか?」
「…………え?」
む、息子? え? は?
それはさすがに予想外すぎるだろ……。
「し、しかし、私はオータム家を追放された身で」
「べつにオータム家は関係ない。これは君自身の功績だ。それに、私は昔からレイアのことが気になっていたのだ。上位貴族でありながら奢らず謙虚で、媚びを売ることもない。そのうえ頭の良さも兼ね備えている」
「それじゃあ、レイアは私のお兄様になるってこと?」
「レイアさえよければ、だがな」
「私は大歓迎よ!」
リディは目をキラキラと輝かせ、期待の眼差しをこちらに向ける。
――ぐ。
王族なんて、正直オレには荷が重い。
でも、何の後ろ盾もないオレをこうして受け入れてくれる2人の期待を裏切るわけには……。
それに、娘の前で王様に恥をかかせるわけにはいかない。
「……私なんかでよければ、ぜひ」
「やったあああああああああ!!!」
「おお、では早速手続きを進めさせよう。これからは家族としてよろしく頼む」
「はい。ご期待に沿えるよう、精一杯精進いたします」
王様は速攻で執事を呼び、あれこれ事情を説明して手続きに入らせた。
こんな重大なことをこんな簡単に決めていいのかは分からないが、これでオータム家という恐怖からも解放される。
「……ところでレイア」
「はい」
「その、リディが食べたというピグカツサンド?なるものを、ぜひ私にも作ってもらえないだろうか」
「――へ? い、いえでも、王様にお出しできるようなものでは」
「頼む! リディがここまで絶賛する料理がいったいどんな味がなのか、一度食べてみたくなったのだ」
えええええ。
「わ、分かりました……」
「あらあ、わたくしも食べてみたいわ」
「!? 王女様!?」
「聞いたわよ、レイア。あなたうちの子になるんですってね」
「あ――その、ご迷惑でなければ、ですが」
しまったあまりに急な展開過ぎて、ほかの王族たちの意見を考えてなかった。
突然養子になんて、反対するのが普通では?
「実はわたくしも以前からあなたのことが気になっていたの。ただその……オータム家にこれ以上力を持たせたくなくて。だからあまり関わらないようにしていたのだけど。うふふ。これからよろしくね」
「……よろしくお願いいたします」
というかオータム家どんだけ嫌われてるんだ?
まあでも、金や権力のためなら平気で嘘をつくところがあったし、王族にも取り入ろうと必死だったし、当然といえば当然かもしれない。
「オータム家は近いうち爵位剥奪の予定ですし、ちょうどよかったですわね」
「うむ。レイアのことは気がかりだったのだ」
「え――」
爵位剥奪? どういうことだ?
「……レイアに話すのも酷な話かもしれないが、領民からの搾取や横領が複数発覚してな。ほかにも何かやらかしているだろうと現在秘密裏に調査中だ」
「……も、申し訳ありません」
「あなたが謝る必要はないのよ」
「でも……」
「オータム家も、レイアがいれば今回のリディ救出で情状酌量の余地もあったが、残念なことをしたな」
「うふふ、本当ですわね」
王様も王女様も、まるで悪戯を仕掛けた子どものように楽しげに笑っている。
オレ、この国に生まれてよかった……
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