KAC20221 乱世を往くは二刀流ではない!

ざき

第一話(続きません)

 世は戦国。乱世を駆ける武士どもは皆おのおのに武器を取り、あるいは弓、あるいは槍と日々戦場を駆け抜けていた。されど戦場の醍醐味はやはり刀の鍔迫り合い。戦場にも流行り廃りはあるもので、刀の持ち様にしてもことさら華があるとされたのが二刀流であった。長尺の大刀と脇の小差を振るうもの。等しい丈の太刀を両手に提げるもの。順手と逆手で互い違いに構えるもの。その流派は数あれど、世を席巻するはまさに二刀流であった。


 ところでここに、乱世を渡る傾奇者の男が一人。二刀流など世俗の極み、多勢に流されては大義を果たせぬ。そう嘯いて邪道を往く。では唯一にして無二を極める一刀流か? 否。一刀流などとうの昔に廃れた文化。流行り物に乗ることを良しとはせぬが、さりとて時代に遅れることはなお悪い。ならばどうするか? 男は考えた。二刀流でも一刀流でもなく、無双たりうる流派とは何か? 男は考え、考え抜いて、幾巡目かの春を迎えたとき、ついに悟りに至る。



 即ち、十刀流である。



 風吹き荒ぶ平野にて、男は幾十の兵に囲まれていた。

 真っ向に立って威風堂々たるはこの地の武士の一人。小国といえども一国を治める者なれば、その立ち居振る舞いにいささかの隙も無い。戦の只中にて野営をしていたところに十本の刀を提げた男がのこのこと彷徨い込んできたものだから、縛り上げて何処の者かと尋問し、事の次第では斬り捨てる算段であった。男も男で間の悪いことである。


「して貴様、この儂の陣に入り込むとは一体どのような心積もりか」

 ぎらりと鋭い眼光が男を貫く。腰に提げられた二刀は未だ鞘のうちにあるが、名刀であることは容易に察せられる。加えて男を取り囲むは、いずれも二刀を抜いた屈強の兵ども。多勢に無勢の窮地にあって、男はしかし泰然と言い放った。


「なあに、ただ強きを求めて旅をしておった所よ。お主のような者と出会えるとは僥倖よな」

 そう言って不敵に笑う男に、兵たちが俄かに怒気を放つ。最奥で佇む大将が、静かに、しかしはっきりと命を下す。


「そうか。ならば我が精鋭共の二刀、見事乗り切って見せよ!」

 そう言うや否や、兵たちが叫び駆けだす。男は殺到する兵たちを待ち構え、今まさに刀が振り下ろされんとするところで。


 刹那、男がやにわに十刀を抜き放った!

 甲高い金属音とともに、振り下ろされた幾本もの刀が受け止められる。敵は四方から襲い掛かるといえど所詮二刀。掛けて八刀。対する男の刀は十刀。

 即ち、多勢に無勢である。


 受け止めた刀の隙間から男が刀を振るうと、襲い掛かった兵が数人血飛沫とともに倒れ伏す。すぐさま次の兵が斬ってかかるのをいなし、すり抜けざまに剣閃を放つと、一人また一人と兵たちが斬り倒されていく。数十いた兵どもをあっという間に切り抜けると、十刀を構えた男は一気に大将の元へと走り抜けていく。振り抜かれる十刀に対し、大将も二刀を抜き放って応戦する。


 流石は大将といった所か、振るう二刀に淀みはなく、十刀を相手にしてなお遜色ない。男を取り逃がした兵たちが大将の邪魔にならぬよう見守る中、静かにしかし激しく剣戟が交差する。男の十刀はそこらの武士では太刀打ちできないほどに洗練されているものの、徐々に磨き抜かれた大将の二刀に押し返されていく。


「若造め、大口を叩く割にその程度か!」

 唸る大将が鋭く二刀を横薙ぎに払うと、その膂力に男は土煙を上げながら押し返される。形勢不利かに見える状況。しかし男は未だ笑う。

「いやはや見事。凄まじい二刀流だ。だがしかし、勝利するのはおれだ!」


 そう叫ぶと、男はやおら刀を構え、天に掲げる。陽の光を一心に浴びた十の刀身が光り、一点に、否、二点に収束していく!

「真の十刀流を見せてやろう。真の十刀、それ即ち二刀なり!」

 光は今や輝く刀身の形を取り、大樹ほどの大きさにすらなっている。大上段に構えられた光り輝く二刀に大将は怯むも、すぐさま自身の二刀を構え肉薄する。


「おおおおおおおお!」

「十刀流ウウウウウウウウウウウウ!」


 振り下ろされた光の二刀は、大将の二刀をへし折り、そのまま大地を割り平原を貫いた。

 遠景に見える山にまで至った剣閃が何を切り裂いたのか、大きく抉れた大地にざあざあと水が流れ込んでいく。やがてそれは大河となり、海にまで至ったという。

 後の、長良川である。

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KAC20221 乱世を往くは二刀流ではない! ざき @zaki3_roleplay

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