開拓村の練兵風景 ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

開拓村の練兵場にて。

 おや、おはようございます。

 昨日お話だけは聞いてましたが、本当に来られたのですね?

 正直なところ、意外でした。


 あーいやいや、そんな顔しないで。

 悪気があって言ったわけではないんですよ。


 ほら、皆さんはいつも朝から農作業があるわけで、疲れてるでしょ?

 休みの日の朝ぐらい、ゆっくりしたいのではと思いまして。

 自分ら兵士は交代で休みを取っていますが、非番の日なんか一日中寝てるのもいますからね。


 さて、向こうにイスが並んでるところは見えます?

 三人ぐらい座っているところ。

 あれが見学席ですので、あそこで見ていてください。


 ああ、無理に席を用意したわけではないので、そこは気にしないで。

 ちょくちょくいるんですよ、練兵の見学希望の人って。

 練兵は普通に公開してますし、非番の騎士様もたまに来たりしますからね。


 そういうわけで見学席は毎回用意してるんですよ。

 イスを並べてるだけですが。

 しかし個人的には、一般兵が剣を振ってるとこなんか見ても面白くないと思うんですけどねぇ。


 と、話してたら教官が来られたようですね。

 今日の練兵教官は剣騎士様ですか。

 もう少ししたら練兵が始まりますので、見学席へどうぞ。


 さーて。

 知り合いも見てることだし、少しは気合いを入れてやりますかね。

 守るべき村の人に格好悪いところは見せたくないですし。


 まずは槍を両手で持って、半身に構え。

 上へ振り上げ、振り下ろし。

 その後すぐ腰に構えてからの突き。


 最初はゆっくり。

 だんだん速く。

 振って、突いて。振って、突いての繰り返し。


 うわ、見学席から視線を感じる。

 なんか意識しちゃうなぁ。

 疲れてきたけど、しっかりやんなきゃ。


 槍が終わったら小休憩を挟んで、次は剣の訓練。

 腰に差した訓練用の木剣、長短二本ずつのうち、まずは長剣を抜いて両手で持っての素振り。

 ひととおり終わったら長剣を片手持ちにして、もう片方の手で短剣を抜く。


 あれ、見学席のほうが少し動いたような?

 あ、違うんです教官。ちょっと気になっただけなんです。

 はいすみません。ちゃんと前を見ます。


 今度は二人一組になって型稽古かたげいこ

 一人が長剣を振り、もう一人が短剣で受け止める。

 続けて、受けた側が長剣を振り、相手が短剣でそれを受ける。


 決められた動きを何度か繰り返した後は、攻守訓練だ。

 攻め側と受け側を決めて、攻め側は二刀でも一刀でもいいから自由に攻撃。受け側は二本の剣を使って防御に専念する。

 しばらく打ち合った後、教官から合図があったら攻守交替。


 何度かそれを繰り返し、構えを維持するのもきつくなってきたころ。

 教官から「そこまで」の声がかかった。

 兵士たち全員が剣を下げ、緊張した空気が抜ける。


 この後、希望者は教官の騎士様と練習試合ができるけど。

 今日は剣騎士様だからなぁ。あの人めちゃめちゃ強いし、こっちの実力を見切って限界ギリギリまで試合をさせられるんだよなぁ。試合が終わるころにはまともに立てないくらいに。

 試合をしたい何人かの暴れん坊、もとい向上心豊かな同僚が列を作ってるけど、自分はやりたくありません。


 試合しない兵士たちは訓練用の武具とかを片付けて、それで練兵はおしまい。

 って、誰かが拍手してる?

 あっちは見学席だ。


 あー、最後まで見学してくれてたんですね。

 どうでしたか練兵見学。

 見てるだけだと長かったでしょう。つまらなかったと思いますが。


 え、そんなことない? すごかった?

 お疲れ様って、まあ確かに疲れていますが、ありがとうと言われることでも。

 いやまあ、確かに皆さんを守れるように訓練してるんですが、それも仕事のうちなわけで。


 わかりましたわかりました。それくらいにしてください。

 なんか恥ずかしくなってきましたよ。

 もう。


 二刀流もかっこいい? 見たのは初めて?

 確かに兵士の訓練ではあんまり見ないかもしれませんね。

 自分もこの開拓村に来てから扱い始めましたし。


 そうですね。普通のところの兵士は槍一本が多いですよね。次に剣と盾かな?

 わざわざ二刀流を教えるところはあんまりないですね。

 でも、この開拓村は今だと二刀流がメインです。


 なんでかって言うと、片手しか動かせなくなったときのため、ですね。

 実際、そうなったときがありましたし。


 見ててわかったかもしれませんが、主に長い剣が攻撃用、短い剣が防御用です。

 とはいえ、短い剣も刃がついてますからね。

 そっちで斬ったり突いたりもできるわけです。


 まぁ盾でも殴りつけたりすれば攻撃できなくもないんですけどねぇ。

 盾って両手が使えないと使いづらいんですよ。意外と。

 腕に固定するベルトを止めるときとか、移動中に背負うときとか。場所も取りますしね。


 その点、短剣なら片手でも取り回しがしやすいんです。

 扱い方についても剣騎士様が詳しくて、実演もしてくれましたしね。

 おかげで利き腕でないほうでの刃物の扱いにも慣れまして。


 なかなか便利ですよ?

 料理を作る時、どっちの手でも包丁が扱えるようになりました。


 えっ。

 やってみたい?


 うーん、それはちょっと。

 そりゃ自分も鍛えてはいますよ?

 でも他人に剣術を教えられるほどの腕前じゃありません。


 あー。

 剣術じゃなくて料理のほう。そっちならまぁ大丈夫かな?

 そうですねぇ。自分の当番時間はしばらく昼が続くので、夜ならいけそうですね。


 やる気があるなら、練習やってみますか。夜、二刀流。


 おや、どうしました?

 変な顔して。

 こっち見てくださいよ。


 夜の二刀流?

 どこかおかしいです?

 言い方?


 あれ、剣騎士様、いつの間に。

 あーすみません、ちょっと話し込んでしまって。見学席は自分が片づけますので。

 え、違う?


 自分と試合!?

 いやいや、自分もうヘトヘトですから。

 騎士様と試合するような余力は残ってませんから。


 え、元気ありそうな話をしてた?

 夜の二刀流とか?

 いや、自分は練習でやってみるかって話をしてただけで。元気とかそういうのとはまた別の話で。


 あっ。

 いや!

 違います! 誤解です!

 夜の二刀流ってそういう意味じゃなくて真面目な話なんで剣を持ち出さないでくださいってちゃんと説明しますからやめてやめてアーッ!

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