夢から覚めない大人の話
誰かに愛してもらいたかった、誰かのためになりたかった、ただそれだけだった。
真夜中にカップ麺をすすりながらいろいろなことを考えてみる。昔付き合っていた彼女のことであったり、親父との大喧嘩のことだったり、学校をさぼって海辺でずっと泣いていたときのこと。そのどれもがまるで自分の記憶とは思えないくらいに輝いていて、今の自分の影をより濃いものにさせた。涙のせいでカップ麺が美味しくない。これじゃあ海水でつくったのと同然である。
これが夢ならどれだけいいことか。狭いアパートにすら居場所がない。真ん中に布団を敷いて、ごみに囲まれ四面楚歌。味方はもとからいなかったのかもしれない。きっとこのまま独りで死んでいくのだろう、自分には親も彼女も、友達もいない。死んでもすぐには気づかれないと思う。布団の上で腐りきったときにやっと見つかるかもしれない。
大学に通っていたころ、ある講義で教授がこんなことを言っていた。
「人間はひとりでは生きていけません。そのかわり死ぬときはみんなひとりです。心中したって二人は結ばれません。だから生きているうちに繋がりを持ちなさい。そして死なないでください、生きてください」
この言葉を素直に受け取れなかった僕は、もう死んでいるということかもしれない。
苦しい夜はなかなか明けないなあ。太陽のひかりが射さないのは、僕があまりに深い海の底にいるから?
カーテンをすこしめくって窓の外を見ると空も悲しそうに泣いていた。「一緒だね」とだけつぶやき、また布団にくるまり眠りに就いた。
それから彼は一度も目を覚まさなかった。いや、この話もすべて夢だったのかもしれない。あいにく空の晴れ模様を彼は見ずに死んでしまった。夕べまで一緒に泣いていた空を仰がずに。きっと明日は空が彼を惜しんで、しくしく泣いていることだろう。
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