遺書(詩)
先生! どうしたら、死ねますか。そうやつて鼻で笑って、貴方も僕を、馬鹿にするんでせう。
A君! どうしたら、殺してくれますか。そうやつて手で払つて、君も僕を、厭ふのでせう。
どいつもこいつもそうだ、僕なんてどうだつていいんだ。そう、僕が君たちをどうでもいいと思つてゐるようにね。
人間なんて、みんなそうだらう。生きるといふことは、そういうことだらう? 君は、こんなことにもこたへられない、下賤な奴だな。僕は、先生や君たちみたいな阿呆ぢやないから、こうやつて人生を達観してゐるんだ。そうだと思わないかい?
人をひとり殺められぬ男なんぞ、大概である。人をひとり愛せぬ女なんぞ、大概である。
めぐりあひて夢と知りつつ手に触れん塵芥なる影法師かな
砂と散りひとはひとりと知りにける夜はこひしき夜半の月かな
僕の母を父が殺めたぞ、愛したからだ、それだけ好きだつたんだと今ならわかる。
愛といふのは詞だ!死だ!史でもあり志だ!そうだらう、君はそこまで思案をめぐらせたことはあるか? あるまい。
人の夢はかなきものとをしへてもあしきわが子はおひつづけしか
くだらん! こんな人間なんという愚かさ! 魔女狩りでも因縁をつけて、消してしまえ!
どいつもこいつも、僕を馬鹿にしやがって。
誰がために死ぬることなかれ、己のためなり、すべては我に還る!
三寸先にある、女の顔すら摑めぬ男、まことにかたはらいたし。報われん。
駄目なのは君だけぢゃあないんだ、僕も一緒さ。だから一緒に、あの海へ飛ぼう。沈めば僕ら海になる、僕たちは一心同体だ! うれしくないかい、そうか、それならば君ひとりでいつてをくれ。サヨナラ! 僕らの距離より遠く、僕らの時より永く、石の下で眠り玉へ。おねむりなさい。
息が苦しくなつて来た。僕はまだ、死にたくない、まだ、恨み切れぬ心がここにあるというのに、ここで終わるなど恥ぢて入る穴もない!
しかども迎えが来てしまうから、僕はお先に、逝ってきます。
さようなら、皆さん! さようなら、先生! さようなら、生きる価値のないこの世界!
おとといきやがれ! さようなら!
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