二刀流勇者の悩み事~二つの剣は、今日も口喧嘩が止まらない~

ひなた華月

1話完結 二刀流勇者の悩み事


 剣と魔法が存在する世界、アーガルド・ヘルム。


 そこでは、100年間に及ぶ人類と魔族が戦いを繰り広げ、人類は衰退の一途を辿っていた。


 だが、そんな状況を翻す出来事が起こることになる。


 帝国都市ギムレット。

 その土地で、一人の勇者が誕生した。


 彼の者は、対を成す二本の剣を携え、魔王の手先である竜王ファブニールさえも打ち倒し、混沌に満ちた世に一筋の希望を見出した。


 彼の名は、レイヴィル=オーランド。


 長年、王の為に仕えて来たオーランド家の末裔である彼は、世界に平和をもたらす為、故郷のギムレットを旅立ち、魔王討伐の為にたった一人で旅を続ける。


 だが、そんな完全無欠と思われるレイヴィルは、大きな悩みを抱えていた。



『だーかーらー! なんてあんたが出しゃばってくるのよ!! 信じられないんだけど!!』


『うるさいですね、少し黙ってください? あなたの馬鹿が移るので』


『はぁ!? あんた、今あたしのことを馬鹿って言った!?』


『はい、言いましたけど? それが何か?』


『いい加減にしなさいよ……!! さすがにあたしだって限界ってものがあるのよ……!』



 そして、今日もまた、彼の頭を悩ませる事件が現在進行形で勃発していた。


 外は日が沈み、今は宿屋の一室で腰を落ち着かせているのだが、休息とは程遠い状況になってしまっている。


 思わずため息を漏らしそうになったレイヴィルだったが、そこをぐっと堪えて、火花が飛び散る会話に割って入った。


「……なあ、フレイムもアイスも、もう少し仲良くしてくれよ」



 但し、彼が話しかけるのは、人間ではない。


 疲れ切った声で、レイヴィルはベッドの上に置かれた日本の剣に向かって声を掛ける。



 豪炎の魔剣・フレイムソード。

 凍氷の宝剣・アイスエスパーダ。



 レイヴィルの異名でもある『二刀流の勇者』として呼ばれるようになったのは、この二つの剣を携え、魔王軍と戦ってきたからだ。


 そして、その剣は『魔剣』や『宝剣』と冠することからも分かる通り、常人の剣士では使いこなすことはおろか、まともに扱うことすらできないといわれる代物である。


 だが、そんな剣を、レイヴィルは二本同時に扱うことができ、今では自分の手足のように振るうまでに成長した。


 すなわち、レイヴィルはこの双剣を極限まで使いこなす程の域まで達したと言えるだろう。



 だが彼は――極めすぎた。


 その代償が、『剣の声が聞こえる』という超常現象を引き起こしてしまったのだ。



『レイヴィル! あんたも聞いてたでしょ!? さっさとこいつに黙るように命令してよ!』


『マスター。私はただ事実を述べただけで、自分には非はありません。聡明なマスターであれば、分かってくださいますよね?』



 二人に意見を聞き、ますます頭を抱えるレイヴィルだったが、ここで逃げ出すわけにはいかない。


 たとえ、どんな小さな問題でも、立ち向かうのが勇者としての姿だからだ。



「いいか、フレイム。まず、今日の敵は氷属性の魔法を多用する奴だったよな? 正直、お前の炎を纏う剣技がなければ、俺も今頃は氷漬けになっていたかもしれん。だから、お前には感謝している」


『ふっ、ふん! 別に、あんたに褒められたって嬉しくないわっ! だ、だけど……あたしのお陰だって分かっているところは流石ね!』


「……だが、奴の攻撃を止める為には、アイスの力で敵の足元を凍らせる必要があった。これも、アイスがいなければできなかったことだ」


『マスター。私は自分の責務を全うしたまでです。ですが……マスターからの有難いお言葉は、大変嬉しく思います』



 今までヒリついていた空気が少しだけ和らいだことを感じとったレイヴィルは、肩の荷が下りて、ようやく一息つけると思ったのだが……。



『ふふーん、でも良かったわ。レイヴィルにとって、この魔剣フレイムソードこそが、一番の愛剣ってことよね?』


『…………は?』


『だって、そうでしょう? あんたは所詮、あたしのサポートだってレイヴェルも言ったじゃない! これでやっとすっきりしたわ』


『……はぁ。ここまで来ると、馬鹿を通り越して大馬鹿ですね。マスターはそんなことを一言も言っていませんが?』


『はぁ!? あんた、自分が選ばれなかったからって拗ねてるんでしょ? ほんっと子供ね!』


『子供はどっちですか。大体、あなたは元々魔族が作った武器ではありませんか。それを心優しいマスターが武器に罪はないとお使いになられていることを、もうお忘れですか?』


『うっ、うるさいわね!! 大体! あたしだって好きで魔剣なんて呼ばれていたわけじゃないわよ!! それなのに、魔族の奴らに好き勝手に使われて……』


『ええ、そうでしたね。しかし、私はあなたと違って代々オーランド家の宝剣として仕えさせて頂きました。初めてマスターが私を握ってくださった日のことは、今でもはっきりと覚えています……』


『あ、あたしだって覚えてるわよ!! 当然でしょ!?』


『いいえ、それだけではありません。マスターは夜の闇が怖いからといって、鞘に収まる私を抱いて眠った日もあります。あのときのマスターの寝顔は、本当に可愛くて……』


『い、一緒に寝た!? そ、それに抱かれたって……どういうことよ!!』



 何故か自分の情けない子供時代の過去を暴露されたりしながら、またもや激化する相棒たちの口喧嘩に、レイヴィルは今日も日が昇るまで付き合わされることを覚悟する。



 二刀流の勇者と呼ばれた人類の希望、レイヴィル=オーランド。


 彼は今、『睡眠不足』という、おおよそ魔王軍とは関係のないところで、人並の悩みを抱えていたのだった。


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