第11話 昔話の牛若丸

 ボクがはじめに牛若丸の昔話を知ったのは小学生くらいの時だった。児童なんとかという場所で、絵本を見つけた。

 はじめは他の本と同じような昔話として読んでいた。


 親のない子供が天狗と修行をして、強くなっていく話だったか? 勉強もしてなんかとてつもなくよい子な話だった。ボクは主人公の牛若丸よりも、天狗さんの方が気になった。だから天狗さんが活躍する話という程度だった。天狗さんなら修行などいくらでもするだろう。

 天狗さんだもの。


 ただ、最後のオチの部分で、

『牛若丸は成長して源義経になりました』というくだりを聞いて『はぁ?!』と思った。


 誰だよ、この牛若丸って……。

 という感じだった。


 記憶もないくらいに小さい頃は『牛若』と呼ばれていた気がするけれど、『丸』はついていなかった。『丸』がついたら別物だろ? 音の響きが全然違う。


 天狗と修行をした清く正しく美しい少年が、成長すると大人のボクになるわけがない。美しいはそのままでいいけど。清く正しいわけがない。

 怠けるわ面倒くさがるわトップに立つ気力もない小心者がどうしてこんな話になる?


 当時の人がこの話を聞いたら、ボクと同じ反応をすると思う。

 だってボク、めちゃめちゃ嫌われてたし。


 性格悪い人間に強さがついちゃったら、そりゃ面倒くさいよ。しかも品が良くて愛想がいいから上からの覚えも悪くない。猫かぶって弱そうにしてるのに、戦場に出たら人が変るって詐欺以外の何物でもない。


 現場見てない人には嫌われまくってたよ。

 要領が良すぎって。周りの人間が強すぎて守られてるだけの弟君なのにって。


 小物に限って邪魔すんだよ。

 こっちは邪魔したら倒すぞくらいに思ってるんだけど。


 猛獣並みの人たちを止めている風に見えて、実はボクが一番ヤバいという。沸点が最も低いのがボクだった。ボクが真っ先にぶち切れるから、他の人が冷静になってたのかもしれない。

 皆が切れるとボクがまあまあって言ってたから、いいバランスだったんじゃない?


 で、牛若丸って、どんな話だっけ。

 京の五条の橋の上のヤツ?


 あれか。

 あんなに戦ってなかったと思う。


 たぶん、母上がいる一条長成様の家から帰る時の話だと思うんだけど、「寒いから」って言って、妹らしき子が服を貸してくれて、それ着て歩いてたら難癖付けられた。


 男だと勝負を吹っ掛けられるから、女物の服を着とけって話だったのか? そういえば。でも、夜に身なりの良い女性がひとりで歩いてるっていうのも危険なはずなんだけど。


普通なら魑魅魍魎系を疑われる。

どっちにしろ、妹が兄のボクの身を案じてくれたのに、弁慶はそれを無にしやがったという話だ。


 オチを聞いて、頭の中にはてなマークが飛び交った。


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