第5話 お墓

 とんでもない題名ですが、

こないだ鎌倉に行った時のことを思い出したのでそれにします。


 オーバーツーリズムとか言って、鎌倉はめちゃめちゃ混んでいるそうです。

 確かに、ふと見上げたら江ノ電が走っていて、ギュウギュウ詰でした。あれに乗るのは嫌です。道路は渋滞、電車にも乗れない。どうやって行けばいいんだ?

 なんで好き好んで、人でいっぱいの場所に行くのだろう。


 鎌倉はコロナだなんだ言われる前も混んでいました。

 ただ、夏とか花火とかそういう程度です。


 夏も混みますが、鎌倉の花火も混みます。

 歩道は人であふれます。


 だからボクは、空いている時間に行きます。

 そうすると、暗くなってしまいます。


 鎌倉は夜暗くなってからは行かない方が良いらしいですけど。

 霊感が強い人にとても言われました。

「夜の鎌倉は危険だから行くな」と。


 ふつうの人は大丈夫みたいです。

 でもほら、ボク『義経』なんです。


 来ちゃいけないって言われていた鎌倉に、行けると思いますか?

 居心地、悪いんです。ホントにマジで。たまにすっごく昔のすんごく嫌な気配とか感じるし。兄上のとこの家臣とは、ホントに仲悪いんです。


 ボクはなんとも思ってないんですけど、あっちが勝手に嫌ってくるというか、あっちが勝手に敵意を向けてくるんです

 昔からそうだった。ホントに昔からそうだったんです。


 でも、兄上のお墓参りには行かねばなんです。

 だから、八幡様をお参りしてから頼朝あにうえの墓まで行きました。


 ただでさえ遅かったのに、ますます遅くなりました。

 もうすぐ日没みたいな時間になっていました。


 日が暮れるときっとまずいんだろうから、急いでお参りを済ませて、どこかで晩御飯でも食べようと思っていました。それで、階段を上がりました。

 すると、先客がいらっしゃいました。


 男性と女性でした。

 二人でいらしているようです。


 軽く手を合わせ、満足して帰ろうとしましたが、お二人は暗いところに居ます。海外の方のようです。周囲には他に人はいません。

 気にせずに帰ろうとしました。


 だって、声をかけたら不審者として通報されるかもしれません。

 でも、少し気になったので声をかけてみました。


「あの……日本語、わかりますか?」

 通じなかったら愛想笑いを浮かべて帰ろうとしました。


「わかります」

 女性が答えてくれました。


「ここには何しに来たんですか?」

 墓です。ボクも人のことは言えませんが、日没直前、いわゆるトワイライトゾーンの逢魔ヶ刻なんです。


「大河ドラマを観て来ました」

「鎌倉殿ですね」

 大河で鎌倉に居るとしたら、光る君ではなくて鎌倉殿の13人でしょう。


「あれ、面白いですよね。ボクも好きです」

 と言いましたが、ホントは20話までしか観ていません。だって、20話でボク、死んでるんですよ。そこまでなら観られます。

 でも、そこから先は、いつか兄上がお亡くなりになってしまうのです。


 ボクに観られるわけがないでしょう。

 いくら大泉洋さんが演じている頼朝さまだとしても嫌です。ボクの首を抱えて泣いてくださっている兄上(たとえ大泉洋さんだとしても)をみせていただいただけで大満足でございます。

 なので観ていません。


 愛想よく笑うと、少しだけ警戒を解いてくださったようです。

 そこで、「ここ、暗くなると危ないので、日が暮れる前に帰った方が良いですよ。ボクは霊感がないのでわかりませんが、霊感が強い人に危ないって言われました」

と言いました。


 ものすごく怪しいです。通りすがりの人に、こんなこと言われたくありません。

 でも、ホント、人、いないんです。

 オーバーツーリズムと言われている観光地なのに、人がいないんです。


 そういうことかという顔をなさっていました。

 いろいろと警戒することもあるのだろうと思いました。

 ボクだって普段は声をかけません。だって、知らない人に声をかけられるって、怖いです。


 ただ、せっかく観光に来たのなら、楽しい思い出を持って帰ってもらいたいです。ボクも旅に出た時は、現地の人にたくさん優しくしていただきました。


 それが伝わったのか、少しお話ができました。

 そして、「ここは本当に頼朝の墓なのか」と聞かれました。


 その手の話、聞いたことがありました。

 なんか、前に聞いたことがあるんだけど……と思ったのですが、思い出せません。


「わからないらしいです。ここの持ち主がたくさん変わっているらしくて」

 なんか、そんな話だった気がする。

 そう言われているけれど、実は系統の。あの肖像画もヒゲじゃないんだよ。兄上はもっとかっこいいんだってば。


「でも、私はそうだと信じています」

 気配は感じるし……。たまにだけど。

 そう答えると、納得されたようでした。


 鎌倉殿の主人公の北条なんとかの墓の場所を聞かれたので、

「この奥にありますよ」と案内しようとしたら、立ち入り禁止になっていました。

 急な坂道を登らなければならなかったし。


「こっちから行けないから、正規の道を行くしかありません。そこの階段を下りて、左に行くとまた階段があって、そこを上ると行けるはずです」と言いました。

「ちょうどここの裏なんです」

 一回だけ行ったことがあったのですが、兄上のお墓の向こう側にあったはずです。


「北条、どうでもいいからあんまり知らないんです」

 マジでどうでもいい。


 笑顔で別れて、近くのお店でケーキセットを食べようとしたら閉まっていました。あと少し、早ければ……。

 でも、感じのよい旅人たちでした。ケーキセットより、彼らとお話ができた方が良かったです。


 駅に向かって歩いていると、頼朝の墓を建てたのは島津家だということを思い出しました。頼朝の側室が身ごもったまま政子さまに追い出されたアレです。


 その子孫が島津家だということらしく、篤姫が鎌倉まで来たらしいです。

 昔はお墓に島津家の家紋が入っていたのですが、その話をすればよかったと思いました。

 ただ、あの短時間でうまくまとめられたかはわかりません。


 でも、最近、北条が目立ちすぎてないか? と思っています。

 逃げ上手の若君とか。持ち上げられているボクが言うことではないけれど。


 これは、ボクが頑張らねばと思ったり思わなかったり。

 かったるいからどうでもいいけど。


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