第7話 いいわけ

 第7回お題が「いいわけ」

 これ、ひらがななんだよね。


 誰かに赦してもらう時に使う『言い訳』と、どうしてそれがいいのか説明する『理由わけ』があるのではないか? とちょっとだけ思った。


 源九郎義経です。心ならずもご無沙汰です。

 「いいわけ」と聞いて、出てきました。


 ボクは言い訳が好きではない。聞くのが面倒くさいし言うのもヤダ。

 自分がしたことには言い訳せずに責任を持ちたい。そういう選択をしていきたい。


 ボクが絶対というわけではない。

 ボクは間違いをする。完璧ではないから。


 迷って迷って迷った挙句に出した答えなんだから、それの責任を取らないということはしない。逃げも隠れもしない。言いたいことがあるなら言えばいい。聞こう。それに対して言うのは言い訳ではなくて意見である。

 言い訳はしない。行動で示す。


 でも、もしもできるのだとしたら、兄上には言い訳がしたかった。

 兄上の代わりに源氏の棟梁なんて考えてないし、兄上が間違っているなんて一度も思ったことがない。兄上は完璧です。


 ただ、兄上の人の見る目のなさはどうかと思ってる。けど、それだって兄上は優しい人だから、善人は自分の近くに置かずにひとりだけで修羅の道を行こうとしたという解釈はできる。


 なんで周囲にあんなのばっかり置いてたわけ?

 ホント、センスなかったよね。人選の。まあ人間なんて似たようなモンだから、誰が来たってああなってたのかもしれないけどさ。


 中央に近くなるとほとんどの人はクソになる。そんなところからは関係ないところにいた時はいい人だったのにみたいな。鎌倉殿の13人でも20話くらいまでの北条さんがとってもいい人だったみたいな感じ? ボクの死を嘆いてんなら、もっと前になんとかしてくれというのが本音だけどね。三谷さんが考えてくれた素敵なフィクションだけど、ボクはすごく救われた。

 それは置いておく。収拾がつかなくなる。


 中央に来る人は、まれにすごい人がいる。

 父上とか兄上とか清盛様とか。あと秀衡様は別格。


 すごい人には頼ってくる人が多くなる。多くなるとそれが力になって、権力になって、だんだんと欲の塊になってくる。ひとりひとりは大した悪人じゃない。むしろ善い人だったりする。でも、塊になって欲が絡むととたんに極悪人になる。ふつうの人が考えもつかないような悪事ができるようになる。

 個よりも集団の力がすごいってヤツだよね。


 どうして悪い方に流されるんだ? と思う。

 現代だって同じ。人間はそうそう変わらない。変われない。

 でも、悪いことばかりでもないのではないかとたまに思う。人間がどういう時にどう動くかを知っていれば、それを知って動けばいい。

 それが悪に向かうか善に向かうかは。


 当時、兄上に会えば、きっと助けてくれると思っていた。ボクを殺せと言っていたのは兄上の周囲の極悪人どもで、ボクの言葉は彼らのフィルターを通ると兄上に伝わらない。

 だから自分で直接伝えなければと思っていた。


 同じ意味だとしても、彼らが悪意を持って伝えるのとボクがオブラートに包んで伝えるのではやや違う? そもそもオブラートで包まなければいけないってダメじゃんとは思うけれど。伝わる言い方と伝わらない言い方がある。


 でも、兄上はボクが死んだ方がいいと判断してボクに会わなかった。ボクは空気を読むのが得意だから、だから会わなかった。

 でもそれで兄上は鎌倉幕府を作ることができた。ボクやボクの仲間の死を無駄にせず、兄上は源氏の世を作った。そしてお馬鹿な末弟が英雄と呼ばれるようになった。

 すごいなあとボクは思う。

 それが、ボクが兄上が良いと思う理由。

 兄上がいいわけ。



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