第3話 紫の雲(第六感)
小学生くらいの頃、友達からこんなことを言われました。
「紫の雲という言葉を、二十歳までに忘れなければならない」
休み時間かなんかに、明るかったけれどひと気のない学校の教室の前の出入り口付近で唐突に言われました。
「紫の雲? 何それ」
「知らない。それを二十歳までに忘れなければいけないらしい」
「なんで?」
「忘れないと、なんかとんでもないことが起こるらしい」
「とんでもないことって、死ぬとかそういう感じのこと?」
ボクがそう言うと、友達はものすごい勢いでうなずきました。
「そうそう。そんなレベルの悪いこと」
自分の口からは言えなかったんだけど、ボクがそう言ったから勢いよく肯定した感じがしました。
そんなの
友達も本能的に言ってはいけない言葉というものを感じていたように思えました。
当時、そういう怪談が流行っていました。
口裂け女も近い気がしますが、これを聞いた人は何月何日に何かをしなければならないという系統の話です。
言霊が宿るというか、なんとも言えない感じがする話です。
だから、「なんでそんな話をしたんだ!」と怒るよりは、「またこのタイプの怪談か」という程度でした。でも、ボクもその系統の話を振られて笑ってスルー出来るほど人格者ではありませんけど、それは置いておきます。
この話には具体的なストーリーがありませんでした。
―— 『紫の雲』という言葉を二十歳までに忘れなければいけない。
これが伝えられただけでした。
「なんで? 紫の雲って、すごく綺麗だよ」
ボクの脳裏にラベンダー色の雲が浮かびました。美味しそうな薄紫のキャンディーのような色の雲です。
「そうだよね。綺麗だよね、紫の雲。それはわかってる」
友達もどちらかと言えばボクと同じ意見のようでした。
「それとこれとは別のことらしくて……」
困ったように友達は言い、
「とにかく『紫の雲』という言葉を忘れなければいけないらしい」
と、ボクにそれだけを念押しして去って行きました。
何を言いたかったのか、まったくわかりませんでした。
KAC2022の3回目のテーマが第六感だと知り、このことを思い出しました。
第六感は見る・聞く・触る・嗅ぐ・味わうの五感以外で感じることです。
この時、なんだかもやもやしました。
見る・聞く・触る・嗅ぐ・味わう以外の他の感覚が。
後の世も またのちの世も 巡り会え
そむ紫の 雲の上まで
紫の雲で思いついたのはこれです。
ボクの辞世の句と言われてる歌です。
「生まれ変わっても、その次の生でも会おうね。それで、いつか楽園に行けたらいいねえ」
死ぬ直前に弁慶に言ったらしいです。
いつ言ったんだ? という話ですけど。
いろいろ面倒くさくなって、とってもめちゃめちゃ希望的観測を入れております。『無理ゲーなのはわかってるけど、思うだけならタダじゃん』的な。
弁慶がめちゃめちゃ暗い歌だったから、それを受けてランクアップさせてる感じです。弁慶は放っておくと、すぐに暗い思考になります。ダメに決まってます。
しかも、歌の解釈を自分でするという、甚だお恥ずかしいことをしております。
弁慶のせいだからな。まったくもう。
時代が違うからしょうがないです。
ボクは分かり易くを心がけていたので、歌の方もひねりがなくて分かり易いと思います。
これを忘れろと言われているのかもしれないと思いました。それはこじつけかもしれないのですが、とにかくこの『紫の雲』は、いろいろな意味で解らないことだらけでした。
それで、少しだけネットで調べてみました。
すると類似の怪談はあったのですが『紫の雲』ではありませんでした。
このことで、二つのことが考えられました。
まず『直感で脳内変換が起こり、言葉が変えられた』という場合です。
これが起きていた場合、自分を守るためにボクの第六感がこれを行ったと思われます。ボク、すごくね? 無意識のうちに、回避方法を知っていたのかもしれません。
素敵な物で置き換えるといいらしいですよ。
ボクはすごい怖がりなので、直感で気づいたのかもしれません。
次に『忘れる系の怪談を利用して、面倒くさい存在がボクに面倒くさいメッセージを伝えてきた』というのが考えられます。
この場合、そもそもその言葉を知らないので、忘れる等の面倒くさい作業はいりません。ただ、なんかもっと面倒くさいことになる気がします。
この友達が誰だったかも覚えてないし、本当にこれだけ言って去って行きました。
その後、特に雑談とかもしませんでした。
「言ったからな。自分の仕事は終わったからな」という感じがしました。
訳が分からなくて、もやもやしました。
でも、美しいものを心に描けるのは、悪いことではないと思います。
どんな意味があったんでしょうね。
紫の雲
きっと、とても綺麗です。
透き通るアメジストのような紫色が、空一面に広がって……
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