第2話 推し活について源九郎義経が語ってみた

 源九郎義経です。

 今回は推し活について語ってみます。


 関係ないと思われるかもしれませんが、ボクの側室(正じゃないけどちゃんとした妻)の静御前は白拍子という舞のプロです。白拍子は当時のアイドル的存在です。


 ボクは彼女を遠くから見ていました。

 舞い散る夜桜、そこで練習をしていた彼女。


 声もかけられず、近寄ることも躊躇われ、ただ見ていました。

 夜桜も綺麗だったんですけど、そこで静かに舞っていました。


 綺麗でした。


 羽衣を失う前の天女かと思う軽やかさ。

 それはそれは美しかったです。


 声はかけられませんでした。

 こちらが身動きでもすれば、儚く消えてしまいそうだったので。


 この世のものではない、魑魅魍魎かと思わんばかりの美しさでした。

 魑魅魍魎はなんか違いますかね。


 もっと神々しい、清らかな輝きを放つ桜の精霊。

 彼女がさっと手を払うだけで、邪な存在が消え去るような空気清浄機。


 機械に例えるのもおかしいですね。

 なんかそんな感じ?


 存在するだけでありがとう。

 世界はこんなに美しくなるのですねという輝きが、辺り一面にあふれ出します。


 ひとめぼれというものだったのでしょう。

 一目見たら、その姿は忘れられなくなりました。


 それをそっと心にしまい、あっちいったりこっちいったりしていた間も、彼女のことは忘れられませんでした。


 京の都で見かけた時は、そっと遠くから眺め、辛い現実から逃避していました。心を許した仲間にも言わず、そっとそっと想っていました。


 憧れの舞姫でした。

 遠くから見て、綺麗だな、素敵だなといつも思っていました。


 思えば、その頃が一番ドキドキわくわくしていたのかもしれません。

 推し活というものだったのだと思います。


 陰でこっそりと美しい舞を見つめ、キリっとした立ち居振る舞いにドキドキして、噂を聞いてはやきもきして、彼女を見てはほうとため息。


 忙しくない時は彼女のことを思っていました。

 戦の時は無理ですけど。


 平家を倒したら、ボクが有名になっちゃって、いつの間にか静御前はボクの側室になっていました。


 憧れのアイドルが手の届く存在になって、夢のようでした。

 でも、現実の人間であるキミは、当然だけど天女でも桜の精霊でもありませんでした。


 口は悪いし性格も困った感じだし、思っていた以上に乱暴で横暴で泣きたくなることもありました。ここまでする? と思ったことも一度や二度ではありません。


 吉野の山で別れる時は安堵していました。

 やっぱり理想と現実は乖離していて当然なのでしょう。


 夢は夢のままがよかったのかもしれません。

 キミを側室にして、思い知りました。


 もちろん、舞っているキミのことは素敵だと思ってるけど、

 血の通った人間のキミを愛しているよ。


 これからも


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