第2話 B3階段で会いましょう。

蛍と手下てくだりはB3階段までやって来た。


B3階段はこの地下街でちょっと有名である。

霊能的に。

(一般人は特に気にしない…と言うか、知ることも無いが。)


風水や陰陽五行に興味がある人なら気づくかもしれない。


そう。方角が問題なのである。


自分を起点にして北東の方角。

それは「鬼門」呼ばれるものだ。


鬼門は邪悪な「気」を呼び込み災いを招くとされる。

ゆえに、この国では都を災いから守るため

鬼門鎮護の設備を建設している。


京都では比叡山延暦寺。

江戸では日光東照宮。

それぞれが鬼門を塞ぐように建設され

邪悪な「気」が都に流れ込むのをせき止めているのだ。


B3階段の地上出入口はその鬼門に対して真っ直ぐに向いている。

つまり、邪悪な「気」がそのまま流れ込んでいると言う事だ。


さらに地下街という特性も合わさっている。


「気」と言う物には「重さ」がある。


ポジティブな気は軽く、ネガティブな気は重い。


例を挙げれば。

アナタの気分が高揚している時にどんな表現を使うか

考えて見てほしい。


「気分が軽い!」

「ウキウキする!」

「天にも登る心地」

「アゲアゲ!」


このように「上に登る」意味の言葉を使うだろう。


逆に気分が停滞している時は?


「気分が重い。」

「沈んできた…。」

「どん底。」

「ダウナー…。」


やはり、「下に沈む」と言う意味合いの言葉を使う。


ポジティブな「気」は昇りネガティブな「気」は沈む。

そこに流れがあるならばネガティブな「気」は

より低い所へ流れていく事になるだろう。


鬼門に向いていて地下へ通じる。

すなわちB3階段は邪気を吸い込む装置と化しているわけだ。


邪気は地下街に溜まり幽霊たちに影響を与える。

その身に邪気が蓄積されて一定量を超えると

「悪霊」になる。


とは言え、全ての幽霊が悪霊化するわけではない。


人間でも毒物の耐性に個人差があるように

幽霊にも邪気に対する耐性に個体差があるのだ。


悪霊化する幽霊は

生前からネガティブな思考に陥りやすかったり

強い恨みを抱えていたりする者が大半である。

また、精神的に未成熟な若年幽霊も悪霊化しやすい。


そんな訳で。

地下街には一定の頻度で悪霊が出現する。


悪霊は地下街を利用する人達に危害を加える事もある為、

地下商店街連合会は退魔師クリーナー

定期的な除霊クリーニングを依頼しているのである。


今回、蛍が23時に地下街ダンジョンへ来たのも

定期除霊クリーニングの為であった。


「さて、手下一号てした いちごう。準備を始めて。」


「だから、俺は手下一郎てくだり いちろうですって!」


「どっちでもいいでしょ?あんたは私の下僕。手下なんだから。」


「下僕じゃないです!助手ですよ、助手!」


「つまり、手下てしたよね?」


「………。」


見事に論破される手下てくだり君。


「で、今日はどうしますか?蛍さん。」


どうやら不毛な議論は止めて仕事に集中するようだ。


「まず霊視でターゲットを確認しなくちゃ。

その後で障壁展開。逃げられなくしてボコボコにしてやるつもり。」


「障壁の範囲は?」


「Bエリアの6番から14番までお願い。隔壁は2番と10番。

これくらいの広さなら逃げられないと思うわ。」


「了解です。んじゃ、プリセットしますね。」


手下てくだりはリュックからタブレット端末を取り出して

対霊波防御障壁のセットを始める。


「えーと。6から14。隔壁は2と10…出来ました!」


「OK!じゃ、始めるわ!」
















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