水上 蛍の事件メモ -霊能事件は天才少女、蛍におまかせ!-

隼 一平

第1話 天才少女 水上 蛍 見参!

七吾也市なごやし


日本の中部地方を代表する200万都市である。


この都市は夏は非常に暑く、冬は凍えるほど寒い。

寒暖の差が激しいこの地で数年暮らせば、

日本全国、何処へ移住しても適応できるんじゃなかろうか?

そんな感想さえ抱かせる気候的に厳しい土地である。


だからだろうか。

この街では地上を歩く人の姿をあまり見かけない。


どこに行ったのか?だって?


それは……。


地下街に決まっているではないか!

地下街は空調が効いていて四季を通じて快適そのもの。

だから皆、地下街へと潜るのだ!


この街は縦横無尽に地下通路が張り巡らされ、

そこに数多の商店が出ている。


日本初の地下商店街が建設されて以来、

その規模は拡大を続け、今ではどこがどう繋がっているのか?

地元民でも時折、判らなくなるという迷宮のようなありさま。


誰が名付けたか、七吾也地下街ナゴヤ・ダンジョン

そして、今。

深夜の地下街ダンジョンに佇む二つの影があった。


「ねぇ、今夜はちゃんと出るのよね?」


1人は変わったデザインのセーラー服を着た少女。

白色の上着は、長袖で袖口に向かって幅広になっている。

スカートは膝丈よりも少し短い。

その色は鮮やかな紅色。

どことなく巫女装束を連想させる。


「大丈夫ですって。

信頼できる情報屋さんから手に入れたんすから。」


もう一人は二十歳はたち位の青年。

青いジャージに黒いスラックス。

背中には大きめのリュックを背負っている。


「情報屋さんって誰よ?」


少女は疑いの目を青年に投げかけつつ尋ねる。


「ノリさんっすね!」


にこやかに答える青年。


少女はいきなり左ストレートを青年にお見舞いする!

見事、青年の右頬にクリーンヒット!


「あんたねぇ!こないだもガセネタ掴まされたのよ!

いい加減、あの人とは縁を切りなさいよ!」


美しい柳眉を吊り上げて睨む少女。


「いやぁ、確かにガセも多いですけどね。

格安で情報をもらえるんで、ついつい。

何しろ、事務長がコスト削減を厳命してますし。」


かなり良いストレートを貰った割には効いて無いようで

青年はにこやかな表情を崩していない。


少女は軽いため息をこぼすと背筋を伸ばした。


「仕方ないね。さっさと終わらせて帰ろうっと。」

「そうっすね。」


2人は通路を歩いて行く。


すると。


『やぁ、こんばんわ。』


左側の通路から初老の浮遊霊が現れた。


『こんばんわー。元気だった?』


どうやら少女と浮遊霊は顔なじみらしい。


『もう死んでるんだから、元気な訳ないだろう。ハハハ。』


言われてみれば、その通りです。


『ちょっと聞きたいんだけどさ。

ここいらで「黒くなりかけてる」ヤツ見かけなかった?』


浮遊霊は顎に手を置いて考えている。


『ふむ。そういえば、B3出口のあたりにいるヤツの様子が

ちょいとおかしいかな?

なんか悪い顔でほくそ笑んでいるような……。』


それを聞いて少女はニパッと微笑んだ。


『ありがと。行ってみるわ!』


歩き去ろうとする少女に浮遊霊は声を掛ける。


『気を付けるんじゃぞ、王女様プリンセス

何か変な技を持っているかもしれん。』


浮遊霊の言葉に振り返った少女。


『わかったわ。油断しないようにするね。

あ、それと。王女様プリンセスはやめて。

恥ずかしいよ~。』


少し顔を赤らめつつ、足早に少女は歩いて行く。

後からついていく青年はニヤニヤ。


「なにか言いたいことがあるの?」

「いえいえ、なんか可愛いなーとか思ってたり…」


今度は右回し蹴り!

首筋…いや、延髄切りだ!


スピ-ドが乗った一撃を食らっても

青年は平気な顔で立っている。

少し変な角度で首が曲がってるけど。


「やっぱり、効きますねー。この技の切れの良さ!

さすがは霊能界のサラブレッドと言われるだけのことは

あります。」


少女は立ち止まった。

両手を腰に当てて青年を見つめる。

「あのさ。そのサラブレッドって呼ばれ方も嫌なの。

なんで馬に例えられなきゃいけないのよ。

私は、水上蛍みなかみ ほたるっていう、ちゃんとした人間なんだから。

あと、首の角度が人間じゃ有りえないから直しなさいよ。」


青年は首を直しつつ答えた。

「分かりました。蛍さん。」


「それじゃ行くわよ、手下てした1号!」

「俺の名前は手下一郎てくだり いちろうですって!」


間もなく2人は地下街ダンジョンの出入口、B3階段へ到着した。

















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