妖魔刀剣録 疾風迅雷の双剣

荒音 ジャック

妖魔刀剣録 疾風迅雷の双剣

 セミの鳴き声が鳴り響く田舎の神社にて……3人の子供が輪になって手を繋いでいた。3人の内、ひとりは白のTシャツに黒の半ズボンの男の子で2人の女の子は顔がそっくりの双子で、ひとりは緑の浴衣をもうひとりは黄色の浴衣を纏っている。


「大きくなったら3人で妖魔狩りになろう! それで、またここで会えたら結婚しよ!」


 男の子は気恥ずかしそうに、はにかむような笑顔で2人にそう言うと、双子は声を揃えて「その時が来たら……いつまでも一緒にいられる?」と男の子に尋ねると、男の子は「うん! 約束だよ!」と真っ直ぐな瞳でふたりを見て答えた。


 そして、月日の流れは早く……10年が経った頃、セミの鳴き声が鳴り響く日が傾き始めた頃の夏空の下、田舎のバス停にバスが止まり、ひとりの青年がバスから降りた。


 黒髪短髪で、どこかの高校の夏服の学生服に身を包んで、右肩に竹刀ケースを提げている。


司「バス一本乗り過ごしただけでこれか……帰るの遅くなっちゃうな」


 彼の名前は大門 司、今年で16歳になり、妖魔狩りの試験に合格した新米で、今日は用があってこの田舎に足を運んだ。


(ここに来るのは4年ぶりだな……あの2人はまだあの神社で待っていてくれているのかな?)


 司は心の中でそう思いながらこの田舎での思い出を懐かしむ。


(あの神社で出会って、夏のひと時はずっと一緒に遊んで、最後にあそこですごく楽しい時間を過ごした4年前のあの日……しばらくここへ来れなくなりそうだからあんな約束して……それを本気で果たしに来るとは俺もバカだよな……)


 司はポケットから三つの同じ形をした指輪を取り出した。


(今の俺を見たらビックリするかな? 2人はこの4年でどう変わったかな?)


 司は鼻の下を伸ばしながらそんなことを考えて歩いていると、神社へ続く石階段に差し掛かる。


 長い年月で風化した石階段を一段ずつ上がりながら、司は当時のことを思い出す。


(この階段でじゃんけんして誰が先に上がれるかして遊んでたな……ライカはすごくじゃんけん弱くていつも最後だったな。代わりにフウカはじゃんけん強くて一番乗りが多かったっけ? 小さい頃は大きく感じた階段も今じゃ普通に感じるな)


 そんな時、ゾワッと石階段の上の方から何かの気配を感じた。


(妖魔の気配? それも3体……まさか!)


 嫌な予感を覚えた司は慌てて階段を昇ると、何者かが争っているのか? 何かが崩れる音と木々が倒れるような軋む音が聞こえてくる。


 階段を昇り切って神社の境内につくと、そこには壊された社と身の丈2m以上はありそうな二足歩行のゴリラのような怪物で毛の生えていない痣黒い皮膚が微かに差し込む夕日に黒光りしており、そんな怪物に立ち向かう2人の少女の後姿が見えた。


 ひとりは緑の浴衣を纏っており、もうひとりは黄色の浴衣を纏って顔がそっくりなところを見ると、双子なのだろうか? 怪物に向かって刀を構えている。


 双子は同時に怪物に飛び掛かって切りかかるも、怪物は両腕を力任せに振り回して、双子を薙ぎ払う。


 体勢を崩された双子は、同時に怪物の伸ばした大きな両手に掴まれ、身動きが取れなくなった。


「つっかまぁえったぁ! さあて、どうしてやろうかな?」


 怪物は不気味な笑みを浮かべ、両手に力をこめると、双子の少女たちは、体が潰れ始める痛みに「うあああ!」と悲鳴を上げる。


 そこへ、刀を抜いた司が「ウオオオオオ!」と雄叫びをあげ、怪物から見て、左から切りかかった。


 しかし、怪物の頭へ振り下ろされた刀の刀身は、怪物の頭部に当たるとともに、その皮膚すら傷つけることが出来ずにバキンと音を立てて折れてしまった。


 司は「なっ!?」と驚きの声を上げながら怪物をよく見ると、怪物の体は細かい鱗で覆われており、全身を包む鎧のようになっている。


怪物は乱入してきた司へ顔を向けながら「そんな刀じゃオイラの鱗は……」と言いかけたその時、司は咄嗟に今握っている折れた刀の先端を怪物の左目に突き出した。


 突き出した折れた刀身の先端は、グサリと怪物の左目に突き刺さり「そこは鱗ついてねえだろ?」と司は嘯くと、怪物は「ぎゃあああああああ!」と叫んで、双子を離し、司を振り払う。


 投げ捨てられた双子は叩きつけられるように地面に落ちて、司はそんな双子の前に着地して、折れた刀を構える。


 双子は地面に伏せたまま、司の後姿を見て「司?」と声を揃えて尋ねた。


「約束……果たしに来たよ!」


 司は双子に背を向けたままそう言って、怪物を睨みつけると、怪物は左手で左目を覆うように頭部を抑えながら司たちの方を見る。


「よくも俺にとって大事な人を傷つけたな! 覚悟しろ!」


 怪物に向かってそう吠えると、怪物は驚いた様子でこう言った。


「妖魔狩りがなぜ妖魔を庇う!」


 その一言を聞いた瞬間、司の脳裏にここに着く直前のことが浮かんだ……そう、妖魔の気配は3つあったのだ。しかし、この場には目の前にいる異形の姿をした妖魔以外の妖魔は見当たらない。


 しかし、妖魔の気配が解る妖魔狩りである司は後ろにいる双子が、妖魔であると認めざるを得なかった。


 司は思わず「え?」と呆気にとられ、後ろを振り向こうとした瞬間、飛んできた3本の黒い棘が司の左胸に突き刺さり、吹き飛ばされた司はふたりのいる地面まで吹き飛んだ。


 地面を転がり、動かなくなった司に、ふたりは「司!」と叫びながら這うように司の下へ向かう。


 仰向けに倒れる司が見えたのは心配そうな顔で自分の顔を除く4年ぶりに会う双子の顔だった。


左胸に刺さっている棘は心臓の位置で死を予感しながら司は「……4年ぶりの再会になんて顔してるんだ?」と双子に尋ねる。


「本当なのか? フウカとライカが妖魔だってこと……」


 司の問いに双子は声を揃えて「ごめんなさい」と謝った。


「フハハハハ! 愚かな人間だ! 妖魔を助けたばかりに妖魔に殺される! 貴様らを喰えばオイラはもっと強くなれる!」


 怪物は高笑いしながらそう言うと、司はゆっくり起き上がって左膝を地面についた状態で立ち上がろうとする。


「いいんだ……例えフウカとライカが妖魔でも、あの時の思い出は……まやかしなんかじゃないんだから!」


 体に力を込めて立ち上がるも、司は「ゴフッ!」と口から血を吐き出し、倒れそうになり、再び踏ん張って双子にこう言った。


「君たちは逃げてくれ……その間に俺はコイツをやっつけるから……」


 司は両手で正面に折れた刀を構えてふたりにそう言ったが、刀は折れ、失血が酷い状態では、目の前の怪物を倒すことなどできるはずがない。


 そんな司にフウカは右腕に、ライカは左腕に抱き着いて、ふたりは「ずっと一緒にいるって約束したよね? 私たちは例えどんな形になっても……司の傍にいるよ」と言って司の刀を優しく手放させてこう言った。


フウカ・ライカ「古の盟約に乗っ取り、我らこの者を剣士と認め、この者の刀としてその銘を名乗り、死を共にすることを誓う」


 2人は声を揃えてそう言うと、何かに気づいた怪物は「正気か!? 人間のために刀として一生を終える気か!」と叫ぶ。


フウカ「我が銘は風花!」 ライカ「我が銘は雷花!」


 次の瞬間、眩い光がその場を包んで嵐のような風が吹き荒れ、地面を揺らすような雷鳴が鳴り響いた。


 辺りが静寂に包まれると、そこには負っていた傷が消え、右手に緑の刀身の刀を、左手に黄色の刀身の刀を握る司がおり、ソレをみた怪物は「きさまぁ!」と叫んで司に飛び掛かる。


 司は飛び掛かってくる怪物に向かって二刀流の構えを取り「行くよ……フウカ! ライカ!」と呟き、スーッと息を吸って両手に握る刀を右脇に構えた。


 司は「ウオオオ!」と叫んで右手に握る刀を振り上げると、突如吹き上げた爆風が鎌鼬現象でも起こったかのように怪物の体を鱗ごと切り裂いた。


 怪物は「ぎぃえあああ!」と苦しむと、司は左手に握る刀を自身の肩に乗せるように構え、振り下ろした。


 振り下ろされると同時に突如雷光がその場に奔って、それを受けた怪物の体を焼き焦がす。


 激痛で動けなくなった怪物は痙攣しながら棒立ちでいると、司は怪物に飛び掛かった。


「妖魔刀剣奥義! 風刃雷閃!」


 司はそう叫んで両手の刀を振り上げ、左から入るように振り下ろすと、爆風と雷光が怪物に襲い掛かり、怪物は木端微塵に吹き飛んだ。


 怪物がいなくなり、辺りが静寂に包まれ、司はドサッと両膝をついて腕を胸の所まで上げ、両手に握る刀を見て「うああああああああああ!」と空に向かって泣き叫ぶ。


 それからしばらく経ち、アパートの一室で、学生服姿の司は「妖魔狩り」と刺繡が入った腕章を左二の腕につけて、二振りの刀の鍔に赤の糸でストラップのように指輪を結び付けていた。


 一振りにひとつずつ指輪をつけ終えて「ヨシ!」と言ってから自身の左薬指に最後の指輪を嵌めた。


「こんな形になったけど……これで俺らはずっと一緒だ!」


 司はそう言って刀を腰に差し、アパートを出た。アパートの外に広がるのは司が今住んでいる街の景色が広がっており、司はあのふたりが今も自分の傍にいることを感じていられるように、左手で腰に差している刀を抑えながら前に向かって歩き出した。


・司は語る。

 こうして、俺ら3人は夫婦になった……一部の妖魔は相手を剣士と認めると、妖魔刀になり、その相手の刀として一生を終えることになる。フウカとライカはもう……人の姿に戻ることはない。


 だけど、2人は俺の傍にいる……もうあの時の思い出を語り合うことすら出来ないけど……死が俺らを分かつその時まで、俺は2人との思い出を嚙み締めて、3人で戦い続ける!

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