相談事その12ー3

 今日は店の定休日。

 久々に俺と朝歌あさかは、ぐうを連れて散歩していた。

 歩けないぐうは、犬用のカートに入れて、そのカートを俺が押す。

 顔だけ出してぐうは景色を見ていた。


「不思議だね、こんなに元気になって」

「そうだな」


 余命宣告の前後は、もう次の日には逝ってしまうんじゃないかと思っていたが、今は元気な日々が続いている。


「ぐうちゃん、もしかして、私達のこと心配?それとも、赤ちゃんに会いたいのかな?」

「どっちもだったりして」

「だよね、何かそんな気がする!」


 朝歌のペースに合わせて歩く。


「ここだね」

「あぁ…」


 朝歌がここで転んでしまった現場に来た。


「ずっと怖かった…」


 店の近くに咲いていた花を摘んだのを、隅にそっと置いた。

 2人で手を合わせる。


「産んであげられなくて、ごめんね…」


 朝歌の悲痛な心が言葉となって出された。


「必ず、元気な赤ちゃん産むから。あなたにしてあげたかったこと、全部するから」

「朝歌…」

「約束するの、1人目の子に」

「うん…」


 そう、俺と朝歌の中では、生まれてこれなかったけど、あの子が1人目なことは変わらない。


「先生が面白いことを言っていたんだけどね」

「何だ?」

「1人だけと思っていたのに、その子の影に隠れて、出産の時にもう1人いた、なんてことがあるんだって」


 なんという、サプライズ。


「めったにないからって言ってたけどね」

「もし、そんなことだったら、どうする?」

灯夜とうや君、一緒に頑張るよ!」

「当たり前だ」


 2人で大切に育てるんだ。


「あれ?何で?」

「えっ?」


 ぐうはどうやってカートから降りた?

 いつの間にか、俺と朝歌の間にいてお座りしていた。


「ぐうちゃん?」

「わん!」


 ぐうは向こうに向けて吠えた。

 その視線を辿ると、10歳の子供がいた。

 麦わら帽子を被って、黄色の水玉模様のワンピースを着て、白いサンダルを履いて。

 髪型はボブヘア。前髪がパッツンだ。

 顔をよく見ると、俺の顔の輪郭で、目は朝歌。

 ん?どういうことだ?


「君は一体ー…」


 朝歌はその子に話しかけたが、呆然としている。

 すると、その子はふふっと微笑む。


「ちゃんと可愛がってね!」


 元気良くハキハキと、その子は言った。


「お父さんに似て寡黙で、お母さんに似て笑顔がチャーミングなの!」

「「…」」


 言葉が出てこない。


「さっ、行こう!」

「わん!」


 ぐうはその子の所に走り出す。


「ぐうちゃん!?」

「ぐう!?」


 ぐうは振り返らない。

 その子に懐いている。



 その言葉で、確信した。

 朝歌も気付いたのか、涙を浮かべている。


「もしかして、君はー…」


 朝歌はその子に聞こうとしたら、その子とぐうは俺らの方を向いて。


「さよなら!」

「わん!」


 駆け出して行った。


「待って!」

「朝歌、無理だ!」


 俺は朝歌を止めた。

 走ったらダメだから。


「待って…まっ、てよ…」


 膝から崩れて泣き出す朝歌。

 俺はしゃがんで、背中を擦る。


「あの子…あの子…」


 不思議な体験をしてしまったようだ。

 カートの方を見ると、ぐうは丸くなって眠っていたが。


「ぐう…?」


 触るとー…。


「朝歌、ぐうが!」

「えっ」


 息を引き取っていた。

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