相談事その12

 常に、平常心で店を開けて、お客様に笑顔で帰ってもらえるようにしていた。

 時間が解決してくれる、という言葉は嘘ではないようだ。

 ぐうのことを、大分受け止めることが出来ていた。

 朝歌あさかも落ち着きを取り戻し、いつもの明るさも戻っていた。

 ぐうを助けた光希みつき光羽みつばには、1番に伝えた。

 2人共、思いっ切り泣いたから、話すのが早すぎたかと思った。

 でも、後日来た時には、彼らなりに理解して受け止めたのか、時間が許される限り、なるべく毎日は無理だが、毎週1回は必ず見に来るようになった。

 志穏しおんも毎週来るようになり、世話をしてくれた。

 常連客も、なんだかみんなで、ぐうを見守っていた。

 本当にありがたい。

 食欲は少しずつ減り、散歩にも行けなくなった。

 寝てばかり、でも、声をかければ反応があるから、そこは救いだったりする。

 たまに志穏に預けて、依頼されている、ウエディングケーキ作りの準備は順調に進む一方、心はそわそわ。

 見ていない間に、何かあったら、なんて嫌なことが過る。


「大丈夫か?」

「あぁ、すまん」


 生クリームを絞り終えて、完成したケーキを見ると、所々ムラがあり、絞った形が不揃いだった。


「今日はここまでにするか。暫くは休め」

「いや、でも…」

「2月に練習を再開しても問題ないって。愛犬と長くいる時間を確保しろ」

「ごめん…」


 龍雄たつおに心配された。

 なんだか申し訳ない。


「お前は優秀だから、暫く休んでも問題ないって。1ヶ月で仕上がるさ」

「おう…」


 楽観的な龍雄に心が救われた。


「じゃあ、また」

「待っておるからな」


 ふざけた口調に、ふっと笑ってしまった。



 月日は流れた。

 ぐうは、すうすう眠っていた。


「ぐうちゃーん」

「…くしゅん」


 自分のくしゃみに驚いたのか、目を開けてゆっくりキョロキョロして、また目を閉じて寝た。


「食べないな」

「そうだね」


 もう時間は少ないようだ。



 朝歌は珍しく1人で出掛けてしまった。

 俺は家でぐうの面倒を見る。

 優しく頭を撫でながら、俺も少しうとうとする。


「ぐう?」


 ぐうは眠るばかり。


「ここに拾われて、家族になって、どうだ?楽しいか?」


 返事は全くない。


「あと少し、長生きしてくれよ」


 せめて、心の準備が出来るまでは居なくなるなよ。

 そんな願い、通じるはずはないのにな。

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