相談事その11ー3

 カランコロン…


「いらっしゃいませー!」

「こんにちは」

「あー、たちばなさん!」


 また来たな。

 今回は、1人ではない。


「はじめまして…」


 彼女の後ろにいたのは、旦那さん。

 この前の事を、2人でここで話すのだろう。


「ささ、こちらに!」


 朝歌あさかは2人をテーブル席に案内した。


「ごゆっくり~」


 朝歌は俺の所に来た。


「まず、アイスコーヒー1つとミルクティー1つ」

「はいよ」

「あとは、上手くいくと良いけど」

「見守ってよう」


 俺らはあくまでも、話す場所を提供しただけ。

 実際に向き合うのはあの夫婦だけ。

 邪魔はせず、見守るのみ。


 緊張しながら朝歌は橘たちが注文した飲み物を運んだ。

 離れると2人は話を始めた。



「話って…なっ何?」


 重苦しい空気が漂う。

 彼はおどおどする癖がある。

 別に私は怒ってはいない。

 だから、余計にイラッとくることがある。


「今までのことなんだけど」


 私は疑問に思っていたこと、疑っていることを、淡々と話した。

 話し終えた所で、私は注文したミルクティーを一口飲んだ。


「何かある?」


 棘のある言い方をしてしまった。

 ちょっと反省しないと。

 彼は顔面蒼白になって、俯いてしまった。

 その態度は、どういう意味?

 まさか、浮気がバレてしまったとか?

 何か悪いことを隠してきて?

 だんだんモヤモヤしてきて、そのモヤモヤが怒りに変わろうとしていた。

 その時、ようやく彼は顔を上げた。

 なんだか、意を決しているような。


「ごめん、不安な思いをさせて」


 ハッキリと彼は言った。


「こんなに勘づいているのなら、ちゃんと言うよ」


 どうしちゃったの?

 急にハキハキ言うから、私の方が動揺する。


「実は、かおるの誕生日を計画していたんだ」

「えっ」


 私の…!?


「サプライズが頓挫しちゃったなぁ…」


 頭をかいて、苦笑いの彼。


「たろちゃん…」


 どうしよう、何て謝れば…。

 ポン、といつの間にか横にいた昼仲が、私の肩を叩いた。


「やっぱりボタンの掛け違いだったな」



「本当にごめんなさい!たろちゃん!」

「いいよいいよ、僕の方こそ、ごめんよ」


 誤解が解けたから、2人共良い表情だ。


「これ、どうぞ」


 フルーツタルトが、今日のケーキでは目玉にしていたので提供した。


「頼んでないけど?」

「サービス」

「気が利くじゃない!」

「別に」


 2人は仲良くフルーツタルトを食べ始めた。

 ニコニコしている。良かった。

 旦那さんは、朝帰りはただ急な夜勤で連絡する余裕がなくてのこと。

 隠れてスマホは、嫁の為に検索。

 甘い匂いは、夜勤で洗濯した時、柔軟剤の入れすぎで、匂いがハッキリとしていただけだった。

 家事は嫁に任せっきりで、洗濯の柔軟剤の量を無駄に使っていたようだ。


「解決しましたね!」

「本当にありがとね!」


 これで夫婦円満は保たれたな。


「こうして、たろちゃんとここに来れて良かった♪」

「僕もだよ」

「次は仲睦まじくで」

「デートの時に!」

「やだぁ!2人共!」


 バシッと俺の腕を強く叩いた橘。

 痛い、どんだけ力が余ってんだよ。

 頬を赤くして…照れてんかい。



「本当に本当に!お騒がせしました!」

「す、すみません…」


 会計が済んだ後。

 2人は頭を下げた。

 やめてくれ、気まずい。


「大丈夫だ」

「私達はただ環境を提供しただけですし」


 朝歌は慌てながら両手をブンブン振って、大丈夫アピール。


「また来るから!」

「お待ちしております♪」


 こうして2人は仲良く店を後にした。


「腕組んで帰ったね」

「ラブラブで結構」


 喧嘩してるより良いからな。


「私達も負けずに仲良くしようね?」

「ん?」


 恥ずかしいこと言ったか?聞き間違いか?


「もぅ!灯夜とうや君!」


 その後、朝歌は暫くぷりぷりしていたのだった。


 ごめんなさい、ちゃんと聞いてました。

 やっぱり、恥ずかしいからさ。

 いつまでも、仲良く、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る