相談事その11

 噂をすればなんとやら。

 なんて、言葉が浮かぶ。

 だって、今、目の前にいるのだから。


「久しぶりだねー!昼仲ひるなか君!」

「だな、たちばな


 先月過去話をしていた時に出てきた登場人物。

 それが、カウンターで頬杖をつきながらゆっくりしている橘かおる。


「橘さんが来てくれるなんて嬉しいです!」

「ありがとう!朝歌あさかちゃん♪」


 にまにました顔で橘は朝歌を見る。

 朝歌もまた喜びが顔に出ている。


「それで、何を?」

「うーん…とりあえず、焼きおにぎり」

「ん?」

「焦げ目ガッツリ、ご飯はふんわりで!」


 注文の多い人だ。

 せっせと作る。

 お好みにならなかったら、許してくれ。

 待つ間、店内を見回して、橘はこう言った。


「なかなか良いじゃない」


 にやぁとする橘。


「ありがとうございます!」


 元気良く言う朝歌。


「評判も上々だし」


 スマホの画面を朝歌に見せた。


「おおー…本当だぁ…」


 驚く朝歌である。

 クチコミも大事な情報。

 しかし、気にしすぎるとダメ。

 ほどよく向き合う程度に。


「香ばしい匂いがする!」


 ちょうどフライパンにおにぎりを焼いている所。


「味噌?醤油?」

「味噌!」


 やっぱ味噌かい。

 片面に味噌を塗りひっくり返すと、ジュウッ!という音がした。

 もう片面にも味噌を塗り、また返して同じ音がした。

 先に塗った方には焦げが。


「良いぞ良いぞ!」


 目を輝かせている橘。

 また返すと、もう片面も焦げがついていた。

 よし、いいだろう。

 火を止めて、フライ返しでおにぎりを掬い、皿に盛り付け。

 豆腐の味噌汁と一緒に出した。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、いただきます!」


 先に出したおしぼりで手を拭いてから、さっそく橘は箸を持ち味噌汁から啜る。


「しみるぅ~♪」


 五臓六腑に染み渡るのか?


「はぁ…美味い!」


 それは良かった。

 次に焼きおにぎりへ。

 箸を一旦置き、両手で焼きおにぎりを持った。


「この香り…幸せ…」


 感嘆の声を漏らしつつ、かぶりついた。

 ゆっくりじっくり咀嚼して飲み込む。


「上出来!」


 良かった、一安心。


「味噌の焦げがこのおにぎりの良さを引き立てて、噛むと口の中でふんわりして…最高!」

「良かったね!灯夜とうや君!」

「おう」


 本当に良かった良かった。


「もうないの?」

「ない」

「そっかぁ…また今度だな」


 おしぼりで手を綺麗に拭き、箸を持って味噌汁を。

 ズズズッとまた味噌汁を飲む。


「味噌汁は、癒し…」


 うっとりしている。


「それで、何しに?」

「あぁ、そうそう!」


 今日は目的があって、橘はここにいる。

 電話で連絡がきて、相談があるとかなんとか…。


「聞いてよ、朝歌ちゃーん!」

「はいはーい!」


 朝歌は橘の隣の席に座る。


「どうしちゃったんですか?」


 囁くような感じで小声で朝歌は言った。

 表情はにこにこスマイル。


「あのさ…」

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