回想その1ー2

 ある日のレストラン・晴々はればれ

 閉店後、先輩方はそそくさと帰って行った。

 私は身の回りを確認をしてから、着替えに裏へ。

 完了すると、良い匂いが漂っていた。

 あれ?何で?

 厨房を覗くと、昼仲ひるなかさんがいた。

 何か、作っているようだ。

 よし、行っちゃえ。


「昼仲さん」

「あぁ…持田もちだか」


 一瞬だけ私を見て、また手元に視線を落とす昼仲さん。


「あのー…何を作っているんですか?」


 気になるので。

 眠れなくなるのは嫌だし。

 昼仲さんは渋る。


「内緒なら、言わなくてもいいですよ!」


 慌ててしまう私。

 昼仲さんとコミュニケーションを取るのは難しい。

 表情は無。

 言葉にもあまり喜怒哀楽はない。

 本当に、難しい。

 それでも、私は、粘った方が良いのかな。


「お先、しますね!」


 ここは一旦、撤退しよう。

 明日の為に、作戦を練る。

 ということで、帰ろうとしたら、「待て」と呼び止められた。

 驚いてしまい、目を最大にして開く。


「待って。座って」


 昼仲さんは、カウンターを指差して言った。

 私はその指示に従い、カウンター席に座った。


「もう直ぐだから」


 待つこと3分。

 お皿に盛り付けられていたのは、パスタ。

 緑、てことは、あれだ。


「ジェノベーゼですか?」


 コクンと頷く昼仲さん。


「食べてみてくれ」


 私はフォークを持ち、くるくるとパスタを巻き付けて、食べた。

 調度良い塩味に、バジルの香りがふわっと広がって鼻から抜ける。

 タバスコをかけたいが、止める。

 調味料をかけるだなんて、邪道な気がした。


「美味しいです!」


 頬は緩み、目尻は下がり、幸せに満ちている。


「そうか…ありがとう」


 ぶっきらぼうな感謝の言葉に、ドキッとした。

 ちょっと照れてるのかも。

 可愛い、なんて思ってしまった。


「いつも、作っているんですか?」


 内緒で作っているのであれば、黙っていてあげないと。


「毎回ではないが、練習とか、試行錯誤で試作とかを…家では出来ないことも、ここでは出来たりするから」


 そうなんだ。


「店長にも許可は取ってあるから、大丈夫」


 努力、してるんだな。

 凄いなぁ…。


「また、食べさせて下さい」


 何故か、ポロッと口から出てきた。

 恋愛感情を抜きにして、ただ協力出来ないかと思って。

 キョトンとする昼仲さん。

 あれ?ダメなの?

 少し不安になると。


「ありがとう」

「えっ?」

「協力して欲しい時に、声かけるよ」


 えっ…嘘…本当に!?


「い、いい、良いんですか!?」

「あぁ、持田が良ければな」

「はい、引き受けます!」


 こうして、試食係となった私だった。



「きっかけは、試食係、なんですね」

「えへへ♪」


 鼻の頭をかく朝歌あさか

 照れてるようだ。

 あの時、呼び止めたのは、正直な子だと思っていたから、感想が聞きたくなったわけで。

 試食係になってくれたから、今の関係があるのは事実。


「素敵です!」


 力強く言う美歩みほさん。


「ありがとう!」


 満面の笑顔の朝歌を見て、癒される俺であった。

 出来上がった。少し冷ましてから持っていくことにする。

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