相談事その7

弓河ゆみかわ!打ち上げた!アウトー!試合終了ー!』


 様々な感情が地鳴りのような叫びとなって響く球場。

 今年の甲子園は、幕を閉じようとしていた。


『礼!』

 という審判の合図と共にサイレンが鳴り響き。

『ありがとうございました!』

 と微かに選手達の挨拶が聞こえた。


「面白かったー!」

「最高ですね!」


 朝歌あさか志穏しおんの会話に、お客様も頷いたり、会話に入ったりして、盛り上がった。


 優勝が決まった。

 今年も西の方が強かった。

 早く、北陸または東北に優勝をしてもらいたい。

 北陸は、春で優勝を決めているから夏だって優勝出来るはず。

 東北は、プロで白河の関を超えたから、決勝だって何度も行っているから優勝出来るはず。

 あと1歩なんだよな。不思議だ。

 少し落ち着いた所で、1人また1人と、店を出るお客様。

 閑散とした店内になった所で。


「夏にだけ来る常連さん、みんな帰ったね」

「寂しくなるな」

「また来年の春には戻って来ますか?」

「うん、春になればね!期間限定なの♪」


 期間限定の常連さん。

 それでも、来てくれるだけで有難いのだ。

 だって、毎年新しい人を連れて来てくれるから。

 それで、気付いたらその人は常連になっていて。

 凄いな、野球の友情というか、なんというか。

 因みに、高校サッカーファンの常連さんも、正月が過ぎると来る。

 新しい人を連れて、そして、その人はいつの間にか常連に。

 ありがとうございます。


 カランコロン…。


「こんにちは!」

「あー!美歩みほちゃんに、たけし君!」

「「お久しぶりです」」

「ささっ、座って座って!灯夜とうやくーん!」

「興奮し過ぎ」


 朝歌は2人をカウンターの方に誘導。

 並んで座った所で、俺は水を出した。


「どうぞ。暑かったでしょ?」


 外の様子を聞いてみた。


「暑かったです」


 と美歩さんは言った。


「もう太陽がね」


 と洸さんが言った。


 やはり外はまだまだ暑いようだ。


「注文は?」

「実はお願いがありまして」

「ん?」


 なんだろう?


「まずは、ご報告で…」


 美歩さんと洸さんは1度互いに視線を合わせてから、幸せな笑顔で。


「トントン拍子に進み、結婚する運びとなりました!」

「キャーッ!!」


 朝歌が1人で盛り上がる。

 俺は呆れて、志穏はポカンとしていた。


「おめでとう!嬉しい!」

「ありがとうございます!」


 めでたいめでたい。


「それで、お願いってのは?」

「あっ!」


 美歩さんは一瞬忘れていたことを思い出す。


「出来るのであれば、お願いしたいのですが…」

「はい」


 少し間を置いてから、深呼吸の後に美歩さんは言った。


「ウェディングケーキ、作って欲しいです!」


「えっ」


 う、う、ウェ…ディング…ケー…キ?


「「ええええええええ!?」」


 俺と朝歌の驚きが店内に響き渡った。

 ふと、我に返ると、ぐうのことを思い出す。

 寝てた!しまった!と思って様子を見ると、ぐうはスヤスヤと寝ていた。

 うっそぉ…マジかよ…ぐう、凄いな。


「ごほん」


 気を取り直して。


「突然ですみません」

「いや、良いんだ。内々で式をやるのか?」

「はい」

「何人くらい?」

「何人だろう?」

「そうだなぁ…」


 美歩さんと洸さんはおよその人数を話す。

 話し終えると、2人は俺の方を向いた。


「20人くらいかと」


 と洸さんは言った。

 てことは見積もっても30~35人分かな?

 ここでは作れないから、ツテを当たるか。


「わかった、ツテが見つかったら作るよ」

「「本当ですか!?」」

「うん」

「「ありがとうございます!!」」


 2人の門出に携われるなんてな。


「いつまでに返事をすれば良いんだ?」

「来年の春に式を執り行うので、遅くても12月までには」

「わかった。もし出来るってなったら、拘りがあれば、2人のイメージに合わせて作るよ」

「「ありがとうございます」」

「絵にしてもらえると良いな」

「分かりました!」


 あー、良かった良かった。


「陰ながら、お手伝い出来るなんて!」


 嬉しいのか、朝歌はさっきからぴょんぴょん跳ねている。


「灯夜君、頑張ってね!」

「朝歌も手伝いなさい」

「えー、見てる方がいいー!味見係とか♪」

「志穏も、手伝い頼むかも」

「分かりました!何でもやります!」

「無視しないでよー!」


 志穏の方が頼りになるな。


「これ、食べてって。お祝いだからサービス」


 冷蔵庫に冷やして置いたプリン。

 話をしながらせっせと仕上げた。

 作って置いていたプリンをカップから皿に移し、上からカラメルをかけて、端にホイップクリームを添えて。

 最後にさくらんぼを上にちょこんと乗せた。


「いいですよ、いいですよ!」


 慌てる美歩さん。


「この前だって!」


 洸さんも慌てる。


「遠慮すんな。店出たら、また暑いんだし」


 2人は互いに視線を合わせて頷き合い。


「「いただきます」」

「素直でよろしい」


 スプーンでプリンを掬い一口食べた美歩さん。


「ん~♪美味しい♪」


 左手を頬に当てて、ご満悦。


「甘いの苦手なんですが、これなら大丈夫です」


 甘いものが苦手な洸さんが言うなら、自信を持てそうだ。


「「ごちそうさまでした」」


 完食、嬉しいです。



 美歩さんと洸さんが店を出てから、2時間後。


 バタッ!

 ポポーッ!ポポーッ!ポポーッ!

 パタン!


「志穏、時間だ」

「はーい!」


 午後5時。

 今日もありがとうございました。


「朝歌さん、灯夜さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様~♪」

「お疲れさん」


 志穏は帰って行った。


「灯夜君」

「どうした?」

「ケーキのツテ、あるの?」

「1人だけな」


 そう。

 アイツがOKを出せば、協力してもらう。

 作り方から教わる必要はあるけど。

 楽しみになってきた。


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