相談事その6ー3

『振りかぶってー、投げました!』


 ラジオが店内に流れている。

 高校野球の熱戦を、実況するアナウンサーと解説者が、言葉だけで、この試合の雰囲気、応援の活気、試合の臨場感を伝えていた。

 時に喜び、時に涙し、時に手に汗握る展開、ファインプレーなど。

 一生懸命に、この時のために練習した成果を出す。

 そして、辿り着いたこの甲子園という聖地。

 ここまで関わってくれた人達への感謝、アルプススタンドにいる在校生や家族、吹奏楽、チア部の応援。

 登録メンバーに入れなかったけど、ずっと一緒に練習して過ごしてきた部員達と共に、勝利を目指す。


『センターのはやしが投げた!三塁走者は走る走る走る!!アウトー!!!』


「「「おぉー!!!」」」


 お客様も盛り上がっている。


「こんな感じなんですね、夏」


 志穏しおんにとって、新鮮なのかも。


「面白いぞ、高校野球」

「休みの日、見てみます!」


 ハマると良いけど。


『8回表が終わりましたが、ここまでファインプレーが多い印象がありますが、いかがでしょうか?』

『そうですね、まずは…』


 彼らの夏は、今年も暑さに負けない熱い試合のようだ。



 珍しく3時半にも関わらず、お客様はいなかった。

 てなわけで、暇で作ったおやつを2人に提供する。


朝歌あさか、志穏、カウンターに来て」

「何々?」

「どうかしましたか?」

「ほれ、おやつ」

「「わぁ!」」


 白玉あんみつ。初めて作ったよ。


「灯夜君は?」

「俺は別に」

「ふーん、まぁいいや。志穏ちゃん、食べよ!」

「はい!」


 2人はカウンター席に並んで座って、「いただきます」と言ってから、食べ始めた。


「ん~♪冷たくて甘くて、白玉がもちもち柔らかで、美味しいー!」

「苺とキウイが冷たくて、この夏には良いですね!本当に美味しいです!」


 良かった良かった。

 夏のレパートリーが増えたな。

 冬に向けて、白玉を使ったデザートを考えてみよう。


「あんこを噛むとプチッてなって、そこから甘い幸せが口の中で広がるわけで!」

「白玉と食べると、甘さがふわってなりません?」

「なるなる!」


 あまり褒めないでくれ。

 嬉しいけど恥ずかしい。


「はい、灯夜君」

「えっ」


 白玉とあんこが乗ったスプーンを、俺の方に向けてる朝歌。


「あーん」


 と言われると、条件反射でパクッと食べた。


「我ながら美味いな」

「自信を持って♪」


 ニコニコと、屈託のない笑顔の朝歌。

 可愛すぎる。


「アツアツで!」

「「あっ」」


 俺と朝歌は志穏の方を向く。

 にやにや、にまにま、な感じの表情の志穏。

 しまった、忘れてた。


「灯夜さん、顔が真っ赤です!」

「恥ずかしがるなんてねー♪」


 志穏、そこをつくな。

 朝歌、面白がるな。

 あー、やられた…。

 穴はどこだ。

 心の底から思った。



「今日もありがとうございました!」

「こちらこそ♪」

「また、よろしくな」

「はい!」


 今日の志穏のお仕事が終わった。


「お疲れ様でした!」

「お疲れ様!」

「おつかれー」


 志穏は店を出た。


「灯夜君」

「ん?」


どうした、朝歌。


「うーん…」


 朝歌は少し悩んでから、こう言った。


「店が終わったら言うね」


 一体、どうしたんだ?

 気になる。でも、仕事あるから集中しないと。


 少し複雑な感情のまま、頭を仕事モードにした。

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