相談事その6ー2

 志穏しおんが帰ってから、常連客に「看板娘が増えたね」と、「てきぱき働いて偉いよ」と、好評を得ていた。

 本人に言ってくれ、と思いつつ。

 そんな感じで、午後8時。


 バタッ!

 ポポーッ!ポポーッ!ポポーッ!

 パタン!


「時間だな」

「閉めますか」


 今日も働いた。


朝歌あさか

「何?」


 たまには良いよな。


「ここで、夕飯にしないか?」

「えっ?」


 こっそりと、家からぐうの餌も持ってきているし。


「いつもなら、記念日限定なのに…どしたの?」


 怪しんでいる。

 やましくはないのに。


「まさか!うわっ…」

「それは違う!」


 おっと、大きい声になってしまった。


「と、とにかく!ここで夕飯だ!」


 そう言って俺は夕飯の支度を始めた。


「ふっ♪変なの」


 朝歌は片付けを再開し、ドアの所に行き、OpenからClosedに看板を直した。



「どうぞ、ナポリタン」

「おぉ!」


 パスタが余っていて、賞味期限も迫っていたから、これにした。


「食べよ食べよ!」

「うん」


 カウンター席に並んで座って。

 手を合わせて。


「「いただきます」」


 ぐうはというと、俺らのご飯を待っていたのか、食べ始めると、ぐうもドッグフードを食べ始めた。

 賢い犬だな、ぐうは。

 気を遣っているなら、しないで良いのに。


「美味しいね!」

「美味いな」


 互いに目を合わせて感想を伝え合う。


「タバスコ、間違って多めにかけてしまって失敗しちゃう時ってあるじゃん?」

「俺はないけど」

「そこは“そうだね”とか言ってよ!」

「悪い悪い」


 同意した方が良いのか。

 分からん。


「でも、灯夜とうや君のこのナポリタンは、多めにタバスコをかけても大丈夫だね!」

「てことは、さっき、失敗したと?」

「灯夜君特製のナポリタンは、タバスコを多くかけても失敗しませーん!」


 くるくるとフォークにパスタを巻いて、口に運び、美味しそうに食べる朝歌。

 俺もくるくるフォークを動かして、パスタを巻いて食べる。

 少し酸味が強かったかな?

 次はトマトを調節しよう。


「「ごちそうさまでした」」


 少しゆっくりして。


「コンソメスープも野菜に染みてて美味しかった♪」

「ありがとうございます」


 ぐうも食べ終えたようだ。


「片付けて帰ろっか♪」

「だな」


 食器をシンクに運び、朝歌が洗って、それを俺は拭いて、食器棚にしまう。


 食器を洗う妻を横目で見ると、大人になったなと思った。

 初めて出会ったのは、妻はまだ大学生。

 20歳だったんだから、そこから比べたら、ですよね。

 俺はあの時は30歳かぁ…おっさんになったな。


 こんなおっさんと、結婚してくれて。

 その前に付き合ってくれて。

 いやいや、もっと前。


 出会ってくれて、好きになってくれて。


 ありがとう、朝歌。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る