相談事その6

 本格的に猛暑が到来した。

 午後1時半。


 カランコロン…。


「こんにちは!」

志穏しおんちゃん、こんにちは!」

「今日からよろしくお願いします」

「こちらこそ♪ささっ、こっちこっち!」


 羽柴はしばさん改め志穏が今日からバイトを始める。

 夏の時間ということで、今日から開店時間は午後2時。

 だから、その30分前に当たる午後1時半から始めることにした。

 用意していた胸当てエプロンを身に付けてみると。


「似合う似合う!」

「あの、なんか、丈が…」

「ロング過ぎるとダサいかなーと思って、私が切りました」

「えっ!?」

「可愛く見せないと!うんうん♪」


 夜中の裁縫はそういうことだったか。

 夜なべしてんなーってくらいで、俺は先に寝ていたんで。


「では、早速なんだが」

「はい!」


 張り切っているな。

 なんだか言いづらいが、それでも言う。


「ぐうの散歩、お願い」

「えっ?」


 志穏は、口を半開きにして、少々間抜けな顔に。

 ごめんなさい。


「これも仕事と思って。2時頃に帰って来てくれれば良いよ」


 ぐうの散歩から始めるのは、なんとなく決めていた。

 それは、2時頃に帰って来たとしても、忙しいわけではないから。

 つまり、朝歌あさかと2人で、または俺1人で準備は出来てしまうわけだ。

 ゆっくりと作業を覚えて貰えればそれで良い。

 ぐうをケージから出し、首輪にリードを付けて。


「はい、お願いします!」

「任せて下さい、行って来ます!」

「「行ってらっしゃい」」


 一瞬ぐうは俺達の方を見た。

 直ぐに前を向いて、志穏に合わせるように、店を出た。


「なんだか、寂しそうな顔してなかった?」

「まあ、初めて一緒に散歩しに行く人だからだろ」

「慣れるかな?」

「志穏の明るさを分かれば、自ずと信頼関係は出来上がるさ」

「だよね」


 分け隔てなく、誰とでも仲良くなっていそうな感じはするから、志穏とぐうは仲良くなれるはず。

 それを信じて、朝歌と2人で準備の続きをする。



 開店して5分後に帰ってきた1人と1匹。


「木々を抜けたら止まったので、引き返して、少し敷地内で遊んでました」

「声がしたから、そうだろうと思っていたよ。ありがとう」

「いえいえ」


 いつまで経っても、あの先へは行きたがらないようだ。

 困ったなぁ。


「次は本格的にバイトの内容を教えるね!」

「はい!」


 今度こそ!という雰囲気が出ている。

 出鼻を挫いてすまなかった。


 カランコロン…。


 お客様だ。


「「いらっしゃいませ!」」


 2人の元気なご挨拶が響いた。



 志穏はてきぱきと動いていた。

 飲み込みが早く、無駄な動きは全くない。

 忙しい時間帯でも、注文の間違いはしなかった。

 あれよあれよと、午後5時頃。


「志穏」

「はい!」

「今日のバイトはここまで」

「ありがとうございました!」


 3時間30分きっちり働いて貰った。


「志穏の休みなんだが、定休日の月曜金曜の他に水曜も休みだからな」

「分かりました!」

「ちゃんと勉強するように」

「承知しております!」


 バイトで成績落としたら堪ったもんじゃない。

 しっかりしてそうだから、信用はしてるけどな。


「どうしてもって時は水曜も来て貰えば?」


 朝歌は提案してきた。


「だな。どうしてもって時はな」

「必ず駆け付けます!」


 志穏は敬礼ポーズをする。


「もちろん、急用あれば連絡してね」

「はい!」


 これで良いな。


「んじゃ、また明後日な」

「ありがとうございました!」


 志穏は奥に行き、エプロンを所定の位置にしまい、荷物を持って。


「また、よろしくお願いします!」

「はーい!またね~♪」


 元気良く帰って行った。


「楽しかった~♪」

「朝歌は毎日楽しそうだぞ」

「志穏ちゃんが居たから、格別に」

「良かったな」

「ふふ♪」


 夏休みの間だけとは言え、本当に助かる。


「冬も春も頼まない?」

「頼めたらな」


 無理には頼まないが、最終日に聞いてみようと思う。

 今は仕事を覚えてもらい、楽しく頑張ってもらわねば。

 俺も朝歌も、ぐうも、迷惑かけないように。

 みんなで楽しく、夏を乗り切ろう。

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