相談事その5

 暑さがじわりじわりと感じる今日この頃。

 梅雨明けはツラい。


「日差しが強いね?」

「もうダメだな」

「暑さ苦手だもんね?」

「冬の方が耐えられるからな」


 暑さなんか、消えてしまえば良いのに。

 四季から夏が消えたら三季?語呂悪い。止めよう。


 カランコロン…。


「いらっしゃいませ!」

「こんにちはー!」


 元気良く来たのは。


志穏しおんちゃんだー!」

「お久しぶりです!」


 1ヶ月ぶりの羽柴はしばさんだった。


「アルバイトの許可が下りたので、夏休みはお世話になります!」

「了解だよー!嬉しい♪」


 やっぱり人手は必要だしな。


「志穏ちゃんのエプロン準備しなきゃだね♪」

朝歌あさかさん、服装はどんな感じが良いですか?」

「胸当てエプロンの下は、Yシャツでも白の襟付きのTシャツでも良いし、ボトムスは黒なら何でも!」

「分かりました!参考に写真撮っても?」

「なら、みんなで撮ろうよ!」


 記念撮影会が始まった。


「皆さんで撮るなら、カメラやりますよ?」


 カウンターで読書をされていた男性のお客様が言った。

 たまに来店して下さるちょっとした常連客の方。

 会話はこれが初めて。


「ありがとうございます、ご迷惑でなければ…」

「そんなことないですよ。思い出というのは、残しておかないと後悔してしまいますからね」


 お言葉に甘えて記念撮影をすることに。

 ぐうも一緒に。


「うおっ!また重たくなったね!」

「大きくなったな」

「わん!」


 俺の隣にぐうを抱っこする朝歌、俺達の前に羽柴さん。


「では撮りまーす。はい、チーズ!」


 カシャッ!


「もう1枚撮ります。はい、チーズ!」


 カシャッ!


「はい、OKです」

「「「ありがとうございました」」」

「わん!」


 後で写真屋さんに行こう。



「ここで良いな」

「うん、完璧!」


 現像した写真を写真立てに入れて、レジ横に飾った。


「良い写真だな」

「だねぇ♪」


 ぐうがカメラ目線で良かった。

 女子2人は笑顔で良いが、俺は仏頂面とまではいかないが、なんとも言えない。


灯夜とうや君、相変わらずの表情」

「はは」

「でも、私は好き」

「ありがとう」


 俺からはあまり“好き”と言わない。

 妻は1日1回は“好き”と言う。

 良いのか、これで。


「ふふ♪」


 朝歌は楽しそうにテーブルを拭いていく。

 ずっと見ていられる。


 カランコロン…。


「いらっしゃいませ!」

「やあ」

「あっ、この前写真撮って下さった方!」


 男性は先ほどレジ横に飾った写真を見つけた。


「あっ、これだね?」

「はい!とっても良い写真になってました!」


 じっくりと写真を見る男性。


「良かった良かった」


 そう言って、男性は2人用のテーブル席に移動し、窓側に座った。

 直ぐに朝歌は男性の所に向かう。


「ご注文は?」

「コーヒー1つとショートケーキを1つ」

「かしこまりました」


 毎回、コーヒーが必ずなのに、今回はショートケーキも一緒に。

 さっそく、取り掛かった。



「お待たせしました、コーヒーとショートケーキです」

「ありがとう」


 お客様の前にコーヒーとケーキを置いて。


「ごゆっくりお寛ぎ下さい」


 朝歌はペコッと軽く頭を下げて、俺の所に戻って来た。


「珍しいね、ケーキを注文したの」

「気分じゃないか?」

「そうかなぁ…?」


 訝しげる朝歌。

 気になってきたな。

 これは…止めても、動くな。

 黙って朝歌の様子を見ていると、お客様の所に行き、空いていた向かいの椅子に座った。


「あの!」

「どうかしましたか?」

「珍しく、ケーキを注文したので、何かあったのかな?と」


 目を丸くして、しばらくすると男性はクスッと笑った。


「君はよく見ているね?」

「えっ?」

「常連客を理解するのに、良いことだ」


 怒られなくて良かったぁ…。


「時に踏み込むと怒る人も中にはいるから慎重に」

「はい…」


 シュンとなる朝歌の様子を見ていて、やはり止めれば良かったと思う。


「名前は?」

昼仲ひるなか朝歌です」

「常連なのに、初めて君の名前を知ったよ」

「お客様は?」

「僕は紅條くじょうです。ここはご兄妹で?」

「いいえ、あの人は私の夫です」

「ほぉ!」


 驚かれた。


「知らなさすぎたかな」

「いいえ、よく兄妹と間違われます」


 朝歌の表情は、今にも「テヘッ」なんて言ってしまうんじゃないかと思うくらいに、表情は「テヘッ」になっている。


「ケーキを頼んだのは、理由があるんだよ?」


 紅條さんは、優しく娘に語るように始めた。

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