相談事その3‐2

「では、どんなご相談で?それとも愚痴ですか?」


 男性の向かいの椅子に座り、前のめりになって聞く朝歌あさか

 男性は少し引いている。


「朝歌、落ち着け」

「だってー」


 子供じゃないんだから。

 ぐうは黙って朝歌の方をじっと見る。

 微動だにしない。


「実はですね…」


 男性はゆっくりと語り出す。


「パワハラとまではいかないんですが、上司の言い方がキツくて」


 頷きながら、先を促す朝歌。


「商談の時も相手に失礼なことを言うこともあるし、その度にフォローして…」

「なるほど、めんどくさい上司なんですね?」

「端的に言えば、そうですね」


 大変そうだ。


「先輩も“嫌になるな”って、飲みの時に愚痴を言って…言うだけ言って俺の愚痴は聞かずに“帰るか”って…それで、ここに来て…」

「なんだか可哀想」


 哀れむ朝歌。少し眉間に皺が寄る。


「はぁ…メッセージでは同棲している彼女から“早く帰って来て”が何十件もあるし…」


 スマホを見ての溜め息はそれだったのか。


「上手くいく先が見えないっす…」


 肩を落として、顔はげっそり。

 世の中、本当に、いろんな人がいるもんだ。


「転職とか、彼女と別れるとか…過ります」


 追い詰められてんなこりゃ。


「今の職場に就職して何年ですか?」

「大卒で就職してー…もう10年か…」


 10年、頑張ったんだな。


「彼女さんとはお付き合いは何年ですか?」

「彼女とは3年です」


 しっかりしてんだな。


「転職となると、何か興味のあるお仕事あるんですか?」


 さっきから淡々と質問をする朝歌に不思議に思いつつ。


「地元に貢献したい気持ちが常にあって」

「地元はどちら?」

「東北です」

「ほほぉ」


 方言があったかい、東北かぁ…。


「実家、地元ではちょっと有名な農家なんで」

「へぇー!お米とか野菜とか?」

「お米はやってませんが、野菜が主です」


 なるほどなぁ。良いなぁ…。

 近々、畑をと思ってるから教えて欲しいかも。


「良いですねー!」

「あはは」


 彼は苦笑する。


「どうしようかな…」


 また溜め息を吐いた。

 悩むよな…。


「とりあえず、もう1年、今の会社頑張ってみたら?」


 話を聞いた上でのことだろう。


「いきなり辞めると大変でしょ?1年かけて引き継ぎして、心置きなく実家に帰れば良いよ!」

「そう…か…」

「彼女さんとは話し合いしてね!」


 苦しい状況を打破するための、最善策かは分からないが。

 苦しい、は無くなるだろう。


「会社にも、彼女にも、話してみます」


 彼の表情はすっきりとしていた。

 荷が下りた感じがする。


「良かったら、お野菜買うから、送って欲しい…なんて…」

「こら、朝歌!」


 図々しいだろ、それ。


「良いですよ、あとで聞いてみます!」

「本当に!?やったー!」


 喜ぶ朝歌。参ったなぁ。


「すみません、図々しくて」


 俺はペコペコと頭を下げた。


「良いですよ良いですよ!」


 申し訳ない…。


「俺ん家の野菜、美味いんで!」


 自信たっぷりに言った彼。

 自慢の野菜なんだろうな。


「あっ!お名前聞いてない!お名前は?」


 そうだ、名前を聞いておかんと。


清水しみずけんって言います」

「清水君ね、覚えた!」


 清水さんは会計を済ませて、傘を持ち。


「ありがとうございました!」

「「またのお越しをお待ちしております」」


 清水さんは店を出た。


「あっ、9時前だ!」


 鳩時計を見て、朝歌は少し気を緩める。


「閉店だな」


 今日も静かな盛況に感謝。

 ぐうは、いつの間にかぐっすり。


 バタッ!

 ポポーッ!ポポーッ!ポポーッ!

 パタン!


 朝歌はドアを開けて、OpenをClosedに看板をセット。

 本日はここまで。


「お疲れ様、灯夜とうや君」

「お疲れ様、朝歌」


 互いに労いの言葉をかけてから、片付けを始めた。

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