相談事その2

 いつも通り、開店準備をしていると、外から「わんっ!」という犬の鳴き声が聞こえた。


「まさか、ワンちゃんが来客?」

「ふざけんな、エサないぞ」

「まあまあ」


 朝歌あさかと一緒に出入口に行き、俺がドアを開けると、そこには幼い子供が2人いた。

 子供に抱きかかえられてるのは、パグ。

 起きてるのか眠いのか、垂れ目で舌を出している。

 小さいからまだ子犬だろう。


「どうしたの?」


 朝歌は優しく話しかけた。


「この犬…僕の住む団地にある遊び場に捨てられてて…」


 小学3年生くらいの男の子が説明する。


「でも、団地では犬飼っちゃダメなんだ…」

「それで、ここに?」

「うん、助けて上げて!」


 隣にいる5歳くらいの女の子が必死に俺達に訴えていた。


「そう言われてもなぁ…」


 俺は頭を抱える。

 飼ったことないし。


「困ったねぇ?」

「「うん」」


 おい、朝歌さん?


「もう少し、いろんな人に声かけてきてよ」

「どうして?」

「本当に誰も居なかったら、うちで飼うから」


 あー、出たー。

 先々考えない、行き当たりばったり的な。


「だから、もう少し頑張って!」


 満面の笑顔で朝歌は子供達に言うと、2人は「「分かった!」」と言って、犬を連れてどこかへ行った。


「戻って来たら、どうすんだよ?」

「その時はその時よ!」

「はぁ…」


 まっ、突然の事にいつも驚かされる分、楽しいから良いけどね。



 次の日。


 カランコロン…。


「すみません、まだ開店まっ…」

「「こんにちは」」

「この前の君達じゃない!」


 またやって来た2人。

 犬も一緒に。


「見つからなかった?」


 朝歌は2人の目線に合わせてしゃがむ。


「うん…団地にいる友達と一緒に探したけど、誰も…」

「そうだったんだ…」


 てことは、えっ?まさかまさか…。


「よく頑張った!あとは私達に任せて!」


 高らかに言った朝歌。

 マジかー。


「ありがとう!お姉ちゃん!」

「良かったね!良かったね!」


 喜ぶ子供を見て、俺は諦めた。

 責任を持とう…肚を括る。


「じゃあ、引き取るね」


 すると、2人はシュンとなる。


「あら?寂しくなっちゃった?」


 2人はコクンと頷いた。


「だよね、分かる分かる」


 1日でも一緒にいたら、情が湧くことだってある。


「大丈夫、ここに来れば会えるから!」


 そう言って、朝歌は2人の頭を撫でた。


「いつでもおいで!たまにお散歩お願いしよっかな♪」


 すると、目をキラキラさせて「良いの?」と聞いてきた女の子。


「もちろん!」


 また2人は喜んだ。


「じゃあ、お姉ちゃんにワンちゃんちょうだい♪」

「お願いします!」


 パグは暴れることなく、すんなりと朝歌に抱っこされた。


灯夜とうや君、なんかお菓子ない?」

「ありますよ」


 クッキーが3枚入った小袋を2人に1つずつ渡す。


「どうぞ」

「「ありがとう!」」


 2人は「「ばいばい!」」と言って、店を出た。


「ようこそ、パグちゃん」


 パグは眠っていた。


「温厚だね、どっしりと構えてる感じ」

「だな」

「大事にしようね!」

「うん」


 これから必要な物を揃えんと。

 あと獣医さんとこに連れて行って予防接種をしないとな。


「この子の名前、どうしよう?」

「朝歌に任せる」

「うーん…」


 犬を持ち上げて、唇を尖らせて考えること5分。

 朝歌は閃いた顔になり、興奮して俺にこう言った。


昼仲ひるなかぐう!」

「ぐう?」

「確認したらオスだし、グーグー寝てるから。メスなら、ぐうにしたよ!」

「あぁ…」


 単純だこと。


「ぐうちゃん、よろしく♪」

「グゥー…」


 看板犬になれると良いな。

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