相談事その1ー2
「少々お待ち下さい」
「聞いて欲しいってさ」
「おっ!1日1回は必ずのお決まりが!」
「必ずではないがな」
朝歌はキッチンから出て、話を聞いて欲しい女性の隣の席に座った。
女性客の相談事は俺よりも朝歌に任せているので。
「まず、お名前は?私は
「えっ…あっ…
自己紹介から始まる会話。
「美歩ちゃんね、覚えた」
予測できない会話になるんじゃないか、なんて思われてるのか、館花さんは少しびくびくしている。
「朝歌、怖がらせてないか?」
「えっ?そんなこと!」
「あっ、大丈夫です大丈夫です!」
慌てている。
大丈夫か?心配になる。
「美歩ちゃん、お悩みってのは?」
「あっ…はい…」
すると、館花さんは俯いた。
しばらく待つと、意を決して、顔を上げて、こんなことを言った。
「私には彼氏いるんですが…その…」
言葉を区切って、更に続けた。
「実は、私、30歳なんですが、初体験がまだなんです」
「「!?」」
俺と朝歌はギョッとした。
いきなり打ち明けられたデリケート問題。
「彼氏は、そういうのは高校の時に済ませてるって言ってましたけど、その時にトラウマが生まれてしまい」
最後まで聞いてから、考えることにして。
朝歌もじっと話を聞く。
「だから、そういう風になっても、私か彼が断念すれば、いつまでたっても最後は出来なくて…」
シュンとなる館花さん。
深刻なのだろう。
「なるほどねぇ…」
しばらく考えること、感覚的に3分くらい。
朝歌はゆっくりとこう言った。
「ねぇ?」
「はい…」
「私、何歳に見える?」
「えっ?」
突拍子のない質問に、館花さんは戸惑いながらも「えと…20代?」と答えた。
「残念、私、今年で31歳!」
「えっ!?」
驚く館花さん。
見た目は本当に20代に見えるからな。
初めてのお客様にたまに「妹さんとここを?」て言われる。
朝歌は今度は俺の方を指差して。
「この
俺は止めろ。と思って、恥ずかしくて2人から視線を逸らす。
「えっと…朝歌さんと、同い年かちょっと上くらい?」
すると、朝歌はいたずらっ子な表情で、人差し指を左右に動かし「違う」と言った。
そしてドヤ顔で続きを言った。
「灯夜君の方が上でね、私と10個、歳が違うの」
「うえぇぇ!?」
館花さんは驚きの声を絶叫にした。
「見えない!見えないです!」
「でしょでしょ!」
歳の話は止めてくれ。本当に恥ずかしい。
朝歌は軽くパチンと手を叩き、仕切り直すように。
「はい、本題に戻るけど」
と言って、軌道修正。
「私達も、そういうこと全く経験なくて、去年結婚してから、初体験をしたんだよ」
あー、赤裸々に。
止めたいが、止めることなく見守る。
「そう…なんですか?」
「うん!」
堂々と、笑顔で言い切った朝歌。
「だから、恥じることは無いんじゃない?」
朝歌は館花さんの肩をポンと優しく叩いた。
「今の若い人達の中には早い人達はいるけど、美歩ちゃん、それを気にしちゃダメだし、自分と比べてもダメ」
黙って聞く館花さん。
「自分のことを大事にしてきた、彼氏さんも貴女を大事にしている、それを誇れば良いんだよ!」
すると、館花さんの中で、何かつっかえていた物が取れたのか、すすり泣きが聞こえてきた。
「そっか…自分を…彼を…誇れば…良いんだ…」
「そうだよ」
優しく館花さんの背中をさする朝歌。
「彼氏さんと話し合ってみるのも良いんじゃない?」
優しく声をかけると、館花さんは頷いた。
「話し合って…みます…」
良かった。
少しでも、進展すれば良いな。
「彼氏さんのトラウマ、病院で相談はありだと思うから」
「はい…分かりました」
館花さんのスッキリした表情に、俺は安堵する。
「灯夜君、何か飲み物お願い!」
「はいよ」
「だっ、大丈夫ですよ!」
「泣いたら水分補給した方が良いらしいよ~」
まだ暑さは先だが、念のため。
「はい、スポーツドリンク」
「すみません…なんだか」
「いいよ」
コップ1杯のスポーツドリンクを飲み干した所で、館花さんは荷物を持って、席から立った。
「ありがとうございました、お代は?」
「1000円です!」
「でも、最後の飲み物…」
「大丈夫大丈夫!」
朝歌は気にするなと言う。
「彼氏さんと良い報告しに来てくれたらチャラになるから」
少し頬を赤くした館花さん。
「…ありがとうございます!」
そう言って会計を済ませた。
「また来ます!本当にありがとうございました!」
「待ってるねー!」
「お待ちしてます」
館花さんは、深々と頭を下げてから、店を後にした。
2人きりになる。
「赤裸々に語りすぎだぞ」
「本音トーク、時には大事」
参ったなぁ。
「ほら、もうすぐ6時!お客様がまた増えるよ!」
「そうだな」
バタッ!
ポポーッ!ポポーッ!ポポーッ!
パタン!
午後6時のお知らせを、鳩時計はした。
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