相談事その1
午後4時過ぎ。
店内には5人のお客様がいる。
静かに勉強する大学生やテレワークをする社会人。
2人組の女子高生は、楽しく動画を見ながら会話している。
初老の方は読書をしつつ、コーヒーを堪能しているようだ。
カランコロン…。
ベルが鳴った。お客様だ。
「いらっしゃいませ!」
その人はカウンター席に座った。
「お客様、メニュー表とお水です」
「ありがとうございます…」
元気がない。
暗めの茶髪でショートボブの髪型。
小柄な感じで、顔の輪郭は丸い。
パステルカラーの黄色で襟つきのカットソーに、紺の膝丈のプリーツスカートを着ている。
「すみません」
その人は朝歌に声をかけた。
「はい!」
笑顔で対応する朝歌。
「あったかいミルクティーと…サンドイッチって時間帯的に大丈夫ですか?」
おそるおそる聞いたその人。
「大丈夫ですよ!具材はどうしますか?」
俺も耳を傾けながら、コーヒー豆を挽く。
「お任せしても良いですか?予算はミルクティーを合わせて1000円までなら…」
なるほど、出来なくはない。
「かしこまりました!
「はいはい」
いい加減に“マスター”と呼んでくれ。
と、心の中で愚痴を溢してから、作業に取り掛かった。
※
「お待たせ致しましたー!」
気に入ると良いけど。
「ミルクティーと、サンドイッチを3つです」
「わぁ…」
感嘆が溢れている。見た目の印象は上々のようだ。
「具材は、玉子とツナと苺を1つずつです」
玉子とツナには、どちらにもレタスとハムも挟めた。
苺はシンプルに甘さを控えた生クリームと共に。
「頂きます」
手を合わせてから、玉子を一口。
咀嚼をする度に、表情は幸せに満ちていた。
「美味しい…」
飲み込んでからの一言。
ミルクティーを一口飲んでから、次にツナを食べた。
最後に苺を食べて飲み込んで、一息吐いてからミルクティーを飲んだ。
「すみません、おかわりは…」
そうくると思った。
「サービスです、どうぞ」
「ありがとうございます!」
今日1番の笑顔を見た。
本当は切った時に余った3切れ分。
おかわりすると思って寄せといた、正解だ。
彼女はぺろりと完食し、ミルクティーも飲み干した。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて言った。
綺麗に完食してくれて、嬉しく思う。
「失礼します、お下げしますね」
空いたテーブルを拭き終えた朝歌が、皿とカップをお盆の上に乗せる。
「ゆっくりして下さい」
一言添えて。
お盆に乗せた食器を、朝歌はキッチンの所に運んだ。
客は、気が付くと、カウンターにいる彼女のみ。
時間はもうすぐ午後5時。
早いものだ。
「あの…」
おそるおそる、また聞いてきた。
食器を洗う朝歌にではなく、目の前にいる俺だろう。
「どうされましたか?」
聞いてみると。
「少し話を聞いて欲しくて…」
まぁ、聞くだけなら、いろんな人の話は聞いてはきたから。
「良いですよ」
彼女は「ありがとうございます」と言った。
どんなお話を聞かされるのか。
緊張感が漂う店内であった。
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