相談事その1

 午後4時過ぎ。

 店内には5人のお客様がいる。

 静かに勉強する大学生やテレワークをする社会人。

 2人組の女子高生は、楽しく動画を見ながら会話している。

 初老の方は読書をしつつ、コーヒーを堪能しているようだ。


 カランコロン…。

 ベルが鳴った。お客様だ。

 朝歌あさかは嬉しそうな顔でお出迎え。


「いらっしゃいませ!」


 その人はカウンター席に座った。


「お客様、メニュー表とお水です」

「ありがとうございます…」


 元気がない。

 暗めの茶髪でショートボブの髪型。

 小柄な感じで、顔の輪郭は丸い。

 パステルカラーの黄色で襟つきのカットソーに、紺の膝丈のプリーツスカートを着ている。


「すみません」

 その人は朝歌に声をかけた。


「はい!」

 笑顔で対応する朝歌。


「あったかいミルクティーと…サンドイッチって時間帯的に大丈夫ですか?」

 おそるおそる聞いたその人。


「大丈夫ですよ!具材はどうしますか?」


 俺も耳を傾けながら、コーヒー豆を挽く。


「お任せしても良いですか?予算はミルクティーを合わせて1000円までなら…」


 なるほど、出来なくはない。


「かしこまりました!灯夜とうや君!」

「はいはい」


 いい加減に“マスター”と呼んでくれ。

 と、心の中で愚痴を溢してから、作業に取り掛かった。



「お待たせ致しましたー!」


 気に入ると良いけど。


「ミルクティーと、サンドイッチを3つです」

「わぁ…」

 感嘆が溢れている。見た目の印象は上々のようだ。


「具材は、玉子とツナと苺を1つずつです」


 玉子とツナには、どちらにもレタスとハムも挟めた。

 苺はシンプルに甘さを控えた生クリームと共に。


「頂きます」


 手を合わせてから、玉子を一口。

 咀嚼をする度に、表情は幸せに満ちていた。


「美味しい…」


 飲み込んでからの一言。

 ミルクティーを一口飲んでから、次にツナを食べた。

 最後に苺を食べて飲み込んで、一息吐いてからミルクティーを飲んだ。


「すみません、おかわりは…」


 そうくると思った。


「サービスです、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 今日1番の笑顔を見た。

 本当は切った時に余った3切れ分。

 おかわりすると思って寄せといた、正解だ。

 彼女はぺろりと完食し、ミルクティーも飲み干した。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせて言った。

 綺麗に完食してくれて、嬉しく思う。


「失礼します、お下げしますね」


 空いたテーブルを拭き終えた朝歌が、皿とカップをお盆の上に乗せる。


「ゆっくりして下さい」


 一言添えて。

 お盆に乗せた食器を、朝歌はキッチンの所に運んだ。


 客は、気が付くと、カウンターにいる彼女のみ。

 時間はもうすぐ午後5時。

 早いものだ。


「あの…」


 おそるおそる、また聞いてきた。

 食器を洗う朝歌にではなく、目の前にいる俺だろう。


「どうされましたか?」


 聞いてみると。


「少し話を聞いて欲しくて…」


 まぁ、聞くだけなら、いろんな人の話は聞いてはきたから。


「良いですよ」


 彼女は「ありがとうございます」と言った。


 どんなお話を聞かされるのか。

 緊張感が漂う店内であった。

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