3.花咲國
花咲國は、主に暖かい気候と広大な土地を利用した綿花栽培で財を成していた。綿花の収穫には大変な手間がかかるものだったが、皇帝が主導して機械産業を推進してからは、収穫量が大幅に上がった。それからは急速に国内の都市化も進んだ。首都はコンクリートに覆われた大都市と化し、全国的にも産業の機械化が更に進んだ。
もっとも、富は皇帝とその周囲に集中しているのみだった。故に、新留村のような辺境の、米なんぞを栽培している地域は、今もあまり豊かとは言えなかった。
それでも新留村は栄えている方だ。人口はおよそ千五百人ほど。学校や病院もあるし、農業の機械化だって進んでいる。そしてそんな中でも神様への信仰は途絶えず続いているのがこの村の特徴だった。周辺の村にも似たような信仰の風習があって、みんな音楽と踊りが大好きだった。
だが、あくまで辺境は辺境だった。
皇帝の考えは、皇帝こそがこの国を支配するよう天神様からの啓示を受けた存在であり、民草が尊敬すべきは皇帝、信仰すべきは天神様だった。田舎の土着の信仰など、あってはならないとさえ考えられていた。
折しもこの年、その皇帝が崩御し、新しい若い皇帝がその座を継いだ。新しい皇帝は近年の世界情勢を見て焦っていた。世界の国々は軍事力を増強しており、銃火器や軍艦や飛行機などの軍需設備を整えている。加えて、各国国民は自国のために一致団結すべきという風潮が強まっている。そこで新しい皇帝は、花咲國が国際社会で生き延びるには、まずは国民の一人一人が国のために尽くすことが大切だと考えた。
よって皇帝は、全国津々浦々に至るまで、人々は天神および己のみを信仰するべきだと決めた。
皇帝は、各地域に残る多神教の信仰を禁ずるとのお触れを出した。当然の如く、新留村のニギ神様の信仰も禁じられた。
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