ビミョーな二刀と言う勿れ

酒井カサ

第『微』話 「1000刀流、目指します」by弁慶

 眠い眼を擦ってテレビをつけると、昼の情報番組が流れていた。

 今日の話題は二刀流。投手としてあるいは首位打者として、目覚ましい活躍をみせるメジャーリーガーの話題から派生したらしい。

 パネルには「主婦で極道」「名探偵で小学生」「教師で転売ヤー」など二足の草鞋を履く職業人が取り上げられていた。極道も小学生も転売ヤーも職業なのか、首をかしげたくなる。


「……そういや、俺も二刀流だったな」

「高校野球じゃベンチを温めるだけだったのに?」


 煎餅片手にディスってくる姉。

 相変わらず人をおちょくるのが好きな人だ。


「野球の話じゃなくて、仕事の話」

「……あんた、仕事の掛け持ちなんてしてたっけ。お姉ちゃん、覚えがないんだけど。まさか、『小説家で密売人』なんていうんじゃないでしょうね。やだやだ、あんたとの関わりを示すものを消去しなきゃ。まずは離縁ね」

「まさか。鉢植えで育てているの、どう見てもサボテンだろ。それにハッパなんてやらなくても気持ちよくなれるのが作家の良いところだっての」


 昨日だって夜分遅くまでカタカタしていたのは筆が乗っていたからだし。

 野球のほうはイマイチだったけれど、作家としてはなんとか生きていける収入を稼げている。人生、わからないものだな。


「なら、あんたは作家と何を二刀流しているわけ?」

「そりゃもちろん、作家とシナリオライターの二刀流さ」

「なにそれ、ものすごくビミョーな組み合わせね。というか、ほとんど同じ職種じゃない。野球なら、シンカーとフォークを使えることを二刀流と言い張っているようにしか聞こえないんだけど」

「それらの職業は似て非なるものじゃい!」


 姉の喩えが秀逸で一瞬、納得しかけたけれど、全ての作家とシナリオライターのためにきちんと違いを説明しなければ。


「姉さんに対して詳細な説明をしてもどうせほとんど聞かないだろうから、要点だけ簡単に。小説は作家が原稿を書いた時点でほぼ完成といって差し支えないけれども、シナリオはライターが脚本を仕上げても全体の完成ではないんだ。仮にアニメの脚本だけ読んだとしても、それだけでアニメの出来は語れないだろ?」

「ふうん、なんとなく違いは分かったけど。ズバっと頭に残る喩えはないの?」


 随分な無茶ぶりだ。

 けど、物書きの端くれとして答えてみせよう。


「……作家は活字のテニス選手で、シナリオライターは活字の野球ってところかな。玉を使って点を取ることは同じでも、使う道具やチームの有無など違いがあるじゃん」

「なるほど。そりゃ似て非なるものね」

「それに二刀流ってそもそも宮本武蔵が刀を二本使ったところから始まっているわけで。打者と投手はてんで別物だから一刀一銃という方が相応しいと思う。本当に二刀流はそうじゃないって主張したい」

「その心は?」

「――シンカーとフォークを使い分ける俺は野球でも二刀流なんじゃない?」


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