油断するとすぐ増える

ティコ

第1話

一人暮らし用の物件を探している時に、普段だったら見向きもしない、ウェブページの広告が目の端に映った。真四角のバナーには、VR 用の眼鏡をかけて大きく口を開けて笑う男性の顔写真と、"これであなたの部屋も快適に!"と言うコピーが踊っている。


どうやら、新しい VR 用の広告らしい。


背景には本棚がある。おそるおそる広告をクリックする。ページが遷移して、VR 書斎という文字が目に入る。

昨今の東京では、地方、そして海外からの人口流入による地価が高騰が深刻化しており、一人暮らし用の安価な物件は非常に狭いものになっている。


このため、新しく始まったサービスが拡張現実型の賃貸住宅である。

このタイプの物件では、椅子やテーブルなど簡素なものだけが置いてある(独房のような)部屋が多い。


入居者は、VRメガネを常に装着して生活する。 VR 空間上では、入居者の好みに合わせてカスタマイズした内装にセットされているので、殺風景な現実とは違う生活を低コストで実現できるというわけだ。

現在では、出掛ける時にも VR を見つける若者が多いので、現実世界で暮らしている人間の方が珍しいのかもしれない。

俺はため息をついてウェブページを閉じた。今時の新しい技術に馴染めていない俺は、VR なんてもっての他だと思っている。しかし……電子書斎は少しだけ気になる。。

俺は自宅の一角をひしめく積ん読達に目をやった。

「お前らまた増えた?」


積ん読達は定期的に手を入れてやらないと、すぐに単為生殖をして増殖するから困ったものだ……。

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油断するとすぐ増える ティコ @thiccco

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