第784話

 魔王軍との戦争が終わって一週間後。クランホームの周りは物凄い勢いで発展を始めていた。


「そっちに運ぶから道開けてくれ〜!」


「その箱はそっち。それはあっちの店に運べ!」


『おい!!! 建設用のレンガは何処に置いた!?』


『北側の建設予定地に運ばれてったぞ!』


 フランガ王国から周辺の土地を正式に頂いた私達だけど、その大半を少々持て余し掛けていた部分があった。


 そこで、プレイヤーも使えるような都市……というか宿場町のようなものを整備することに決めた。


 ぶっちゃけると、前の対抗戦の為にクランホーム自体の改築は終わっちゃったから、土地を貰っても使い道が無いというのが正直なところ。


 出店するお店の多くは各国で飲食店や商店を営んでいる者の系列店で、一部はプレイヤー用の店舗としても貸出を行う。


 隣国が魔界のエルディド魔王国になったことで、フランガ王国やマルテニカ連邦の商隊も多く通るようになるらしいし、経済的にもクランホームの周りが要所になってきている。


「でも、この騒がしさは凄いよね」


「平和になった証と考えたら、悪いことじゃないんだけれどね」


 その結果が、現在のクランホーム周辺の騒がしさに繋がっている。動きの早い商人が、露天だったり建設物資だったりで既に商売を始めているのだ。


 そういった品々もここなら高くとまでは言わないが、持っていけば行くほど飛ぶように売れると商会の人間が理解しているらしい。


 現に木材や石材で使えるものはどんどん買われているし、食料品に関しても結構な量が取引されている。


 ウチと親しい各国の商会も出資していて、既に完成している商会の建物で売買を行っているのも、この経済の流れを大きく動かしている一因となっていた。


「フランガ王国は稀に見ぬ好景気らしいわよ。特に、第一と第二の街辺りはかなりの賑わいになっているらしいわ」


「まぁ、ルート上にある街はそうなるよね」


 そして、フランガ王国はその余波を受けて近年稀に見ぬ大好景気を迎えている。世界各国の物産が集まるのだから、商業面での金銭の流通が凄まじい事になっているのだ。


 必然的に国自体の税収も大幅に上がっているので、帝国との戦費やら何やらでストップしていた国内の公共事業も、その浮いた予算と税収で再開が行われている。


 なので、ティリエラも今はめちゃくちゃ忙しい。ちなみに王様は隣国となったエルディド魔王国へ外交関係のお仕事に出掛けているらしい。


「あの王女様、貧乏くじを引く才能に溢れているわね……」


「周りの気遣いが結局面倒事を押し付けている形になってるのが尚更可哀想だよね」


 面倒事と言えば、ゴリアテ達も今はめちゃくちゃ忙しくなっている。


 というのも、旧帝国領がエルディド魔王国の領土となってから、たちの悪い賊もエルディド魔王国の中で虎視眈々と、金になりそうな商隊を狙っているそうなのだ。


 まだ魔王国が治めて間もない土地であるが故に、魔王国側に土地勘が無くて治安維持にも少々苦労しているのもあり、ゴリアテのような傭兵達はその商隊の護衛として引く手数多になっている。


 それに加え、魔王国側から各国にも協力を要請していて、暇を持て余している英霊達を派遣する形で旧帝国領内の治安維持活動が始まっていた。


 龍馬もあっちこっちの国々に飛び回って外交使節の役目を果たしているし、ルジェは吸血王の嫡子であることがバレて、魔王国側で色々と歓待を受けている。


 モードレッドもキャメロット騎士国の王子としての立場で魔王国に外交使節として向かっていて、ロビンとオデュッセウスはその護衛。というか、ウチに来ている人の殆どは仕事に追われて忙しい。


「部屋でゴロゴロするのも飽きたし、リビングでのんびりしよっか」


「そうね。部屋が広くなったのはいいけど、だからといって引きこもるのも良くないでしょうし」


 終戦後、サラッと部屋のリフォームが行われた結果、今の私の部屋はヒビキとユーリも一緒に眠れる広い部屋に改築されていた。


 と言っても、一つの部屋を三人で使っているのではなく、三つの部屋にそれぞれ扉がついていて、部屋の中から隣の部屋に移動できるようになっただけだ。


 まぁ、三姉妹で過ごしやすくなったと言えばなったんだけどね。ちなみに部屋の順番はヒビキ、私、ユーリって感じになってる。


 さて、そんなことはさておくとして、旧館一階のリビングに下りると色々な資料をテーブルに広げた人達が、それを真剣に見ながら様々な議論を交わしていた。


「……ん? おぉ、アマネ殿!」


「どう? 手術は無事に出来そう?」


『手法は見えております。後は、その手法を行うために必要な素材を揃えるだけですな』


 リビングで議論を交わしていたのは、フランケンシュタインとアスクレピオス、そしてアヴィケブロンの三名。


 アスクレピオスもアヴィケブロンも、元々はエーディーンで活動していた医者や錬金術師なのだが、今回はある件のためにここでフランケンシュタインと共にいた。


『神々の助力もあるのでな。必要な素材で声帯を作ってしまえば、後はそれを喉に移植して経過観察、といったところだ』


『幸いにして、ここには名医と呼べるものもいる。人工声帯の移植など、帝国の病巣を取り除くより容易なことよ』


 黒いローブに青髪赤目のアヴィケブロンが声帯を作り、フランケンシュタインと同じような白衣に身を包んだ長い灰髭のアスクレピオスが、フランケンシュタインと共にそれを移植する。


 そうすれば彼女は、アタは生前と同じように子供らしい声を発して皆と遊ぶことが出来るようになるのだ。


「必要な素材は希少なものも多いが、ここの者ならそれを調達するのも難しくない。ただ、秘境にあって面倒くさいものもある」


「なら、私の依頼という形で人を動かしましょうか。多分その方が色々と早いでしょうし」


 アバドンに頼めばかなり危険な場所の素材も取ってきてくれるだろう。相手が竜種とかだとしても、普通に撃退するどころか仕留めて帰ってくると思うしね。


 後はまぁ、シグルドとかイスカンダルとかアキレウスとか、英雄クラスの人達に声を掛けたら大丈夫だろう。


「ということで、よろしくお願いね」


 私が一声掛けると、カツンと小さな音が鳴る。この感じ、個人的に好きなんだよね。


 と、そんな事を話していると、バタバタとアタちゃんがコカちゃんと駆け回っておいかけっこを楽しんでいた。


 ウチのマスコットキャラになっているアタちゃんとコカちゃんは、プレイヤーの間でもファンクラブが出来る程の人気を獲得している。


 特にプレイヤーのクランの一つに『紳士の集い』というところがあるのだが、ここ最近はそこの紳士が警備員に見つかって捕獲される事案が多発している。


 前にモードレッドが真剣な面持ちで他の皆と目的やら思想やらを議論していたが、紳士の集いの『紳士』がどういう意味かを伝えたら、物凄く気不味そうな表情で顔を見合わせていた。


「……幼子は無垢なまま過ごせばいい。が、コカはまだ声が出せるからいいが、アタは声が出ないからな」


「悪い人が来ないとも限りませんからね」


 尤も、ここには産休中のガリアと、同じく産休中のロボの奥さんであるブランカが控えている。


 そんな環境でアタちゃんやコカちゃんを誘拐しようとする輩がいたら、逆にどんな相手なのか見てみたいくらいだなぁ。














……あ、ちなみにホントにやるとまず真っ先にバハムートとロボが地の果てまで追い掛け回すので、命懸けの逃走中を楽しみたい人は是非やってみたらいいんじゃないかな。

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