第769話
会議が始まったので、今のうちにこの場にいる人達の整理をしておく。
まず、女性陣は私、フランガ王国のティリエラ王女、聖教国の聖女マリアステラ、オルンテス共和国の女王アローネ、アラプト王国の女帝クレオパトラ、レン国の武則天様、そしてキャメロット騎士国のグィネヴィア女王陛下。
男性陣はウォルクのギルガメッシュ、スメラミコトの将軍徳川慶喜公、ノルド皇国の皇帝イヴァン、マギストス王国のシャルルマーニュ陛下、ケーニカンスのライオネル王、そしてマルテニカ連邦のリンカーン大統領となる。
「錚々たる面々に私がいるのが、少々不釣り合いに思えてしまいますね」
「反帝国同盟の旗印が言える言葉ではないな。とはいえ、本来関わりのないアマネ殿に押し付ける形になってしまったのは我らの不徳か」
「そうだな。本来ならば、アマネ殿を旗印とせずに我々の手で事を収めるべきであった」
列席する全員がまず同意したのは、帝国の因縁を終わらせる事に私を巻き込んで申し訳無い、ということ。本来ならば自分達の手で終わらせるべきだったと、全員が口を揃えて同じような事を言う。
「結果として帝国は滅びたのですし、何れにしろ
「まぁ、確かに終わったことを考える必要はないか。今考えるべきは、何れ来たる魔王軍の対処と空地となった旧帝国領の扱いだな」
今回の会議の主題はその二つだ。一つは宣戦布告した魔王軍をどうするかということと、もう一つは人のいなくなった旧帝国領の管理及び割譲。
但し、考えまとめる難易度としては前者より後者の方が難しい内容となっている。
「ケーニカンス獣王国としては、旧帝国領の権利は放棄させていただく。正直に言えば、嘗て奪われた旧領を奪取出来た時点で、領土的に欲する地はもう無いのだ」
「マルテニカ連邦も同じく。既に帝国領となって長い時が過ぎたこともあり、入植する人の宛さえ無いような状態なのですよ」
「フランガ王国も同じだ。そも、我が国も防衛と題した籠城戦が得意なだけの小国。広い帝国領の一部を治めるだけの人はいない」
まず、旧帝国領の何が問題なのかと言えばその国土の広さが挙げられる。
荒れた土地は神々の手により修復されるのだが、直すのはあくまでも土地だけ。家屋や田畑に関してはまた一から建て直さなくてはならない。
入植を考える人間もいないわけではないのだが、それも国境線近くの旧領の話であり、帝国領の奥深くまで開拓して治めるようなことは全く考えていないのだ。
「ハッキリ言って、魔王軍等という連中より空地となった旧帝国領の処遇が一番面倒だ。これが端の島々や狭い領地であるなら問題無いのだがな……」
「帝国領はこの大陸の一角。島々と違い、奥地に行けば行く程に物資の輸送に時間が掛かる」
国境線や海岸線であれば、その場所に拠点を作ることで建材や食料などの必要物資を運び込むことも出来る。
しかし、帝国の中枢部に近くなればなる程国境線や海岸線からは遠くなり、街道も潰れていることから物資の供給という意味でも中央に行くに連れて厳しくなっていく。
そんな土地を遊ばせておくのも問題で、何も無い土地にはモンスターが生息して繁殖し、場合によっては過剰となったモンスターの居場所が無くなって、周りの環境を荒らすことにも繋がってしまう。
だから、最低限でいいから旧帝国領内には幾らかの街が必要になる。そうすれば、そこを拠点として周辺地域のモンスターを間引き、生息数の調整を行うことが出来るからだ。
「広大な旧帝国領を治めるとしても、開拓の費用も馬鹿にはならない。仮に各国で予算を出し合うとしても、正直に言って焼け石に水というしか無いようにも思える」
慶喜公の発言に同意して皆が頷く。今ある国々の予算の一部を開拓の為に使っても、ハッキリ言って採算が取れる未来が見えない。
仮に開拓を終えて収益が得られるようになったとしても、使った分を取り返すには何百年と時間が掛かるのではないかとさえ言われている。
「……まぁ、策が無いわけでもないんですが」
「――ほぅ? アマネの策か。同盟の旗印が考える策がどのようなものか、試しに聞かせてはもらえんか?」
私の言葉を聞いて反応したのはギルガメッシュ。他の皆も私の策が気になるのか、互いに話すのを止めて私をジッと見つめている。
「正直に言って、今ある国々の領地とするにはどの国も負担にしかならないんですよね?」
「そうだな。割譲するにしろ何にしろ、入植する人手も予算も全く足りていない」
「――――なら、旧帝国領は全部魔王軍に差し上げましょうか」
私の言葉に口を閉ざし、全員が明らかにわかるほどの驚愕の表情を浮かべている。
だが、個人的にはそんなに悪い策ではないと思っている。何せ、魔王軍はゼウスらに奪われた土地の奪還を目的としているのだから。
「今、魔王軍が聖教国に侵攻するのは、主神教徒を多く抱える国がここしか無いからです」
「……そうか。帝国の過激な教徒は皆果てたから、その代わりとして聖教国が狙われているというわけか」
魔王軍の本当の敵は帝国の主神教徒であり、聖教国の主神教徒ではない。
だが、その帝国の主神教徒は国諸共滅びているわけだから、そもそも彼らと戦う理由が存在していないのだ。
「皆様の手に余る広い土地を魔王軍に譲り渡し、彼らの国を旧帝国領に建国してもらう。その方が予算的にも響きませんし、何れ貿易という形でその国とも交流する機会が増えるでしょう」
「ふむ……魔界の門は場所を移すことも出来ると聞き及んでいる。旧帝国領に魔族の国、謂わば魔王国でも建国してもらえば、我らも国と国との関係で対話することができる、か」
荒唐無稽に思えるが、実はそんなに悪い策ではないと思う。自分達の手に余る土地を押し付けて、ついでに建材や食料などの必要物資を売ってしまえば利益も得られるのだから。
「利にするのが難しいのはわかっているからな。アマネの策ならばこちらに大きな損も無いだろう」
「だな。魔王軍を名乗るのだから、上に王がいるのもその名でわかる。ならば、その魔王殿には新たな土地を治めてもらって、その手腕を見させてもらおうか」
「うむ、それも悪くはないな。王を名乗るのであれば、その実力というものを一見する必要がある」
私の策を聞いて、皆口々にその策でいいと同意の声を上げ始める。
さて、そうなると魔王軍の対処をどうするかという話にはなるが、それはもう既定路線があるので何かを決める必要もない。
「マリアステラ殿。魔王軍との戦場は既に決まっているのか?」
「は、はい! 嘗て帝国軍と交戦した古戦場跡をそのまま使う形になります!」
「あの古戦場ね。確かに、彼処は防衛戦向きのいい立地だもの。いざとなれば防備を固めて魔王軍を追い返すことも出来るでしょうね」
そう言って不敵に笑うグィネヴィア女王陛下。何処か妖艶とも艶然とも呼べるその雰囲気に、マリーの息を呑む音が聞こえた。
「――――尤も、追い返す等という無様を晒すつもりはないのだけれどね」
グィネヴィア女王陛下のその言葉により、列席する王侯の雰囲気が次々と変わっていく。
「ふむ。我がマルテニカの州軍の力を、遅刻してきた連中に思い知らせるいい時でしょう」
そう淡々と口にしたリンカーンの背後には、巨大な岩のゴーレムのような幻影が、彼の放つ
「ハッハッハッ! 我が獣人軍も、獲物を狙うハイエナ共を叩き潰してケーニカンスの武を見せつけてやろうではないか!」
そう言って高らかに笑うライオネル王の背後に浮かび上がるのは、黄金のたてがみを揺らす獅子。猛々しく吼えるその姿は、正しく王者の威風を纏っていた。
「我がウォルク軍も同様よ! 何、獣狩りというのであれば、我が国も劣りはせんのでな!」
ライオネル王に触発されたのかギルガメッシュも大きく笑うが、その背後には様々な獣の首を片手で幾つもぶら下げる、剣を持った戦士の幻影が浮かぶ。
「ククッ! アラプトの軍を弱卒と侮られても困るのでな。砂漠に生きる我らの武威、魔族共に見せつけるのも悪くない」
艶麗な笑みを浮かべるクレオパトラ。その背後では、黄金の鱗を有する巨大なコブラが舌を出して威嚇している。
「なら、ヴェラージとしても引くわけには行きませんなぁ。……帝国には遅れを取りましたが、我が国も鋭い牙を有しているのですぞ?」
そう言って朗らかに笑うアクバル王。しかし、その背後では巨大な牙を突き出した巨象が、侮る者を踏み潰さんと高らかに咆哮する。
「ヴェラージの武勇は派遣した我が軍がよく存じているよ。故に、我がレン国もまたその武勇を示してみせようではないか」
そう言って笑う武則天様の背後で、九つの尾を揺らす黄金の狐が眼光鋭く空を睨む。
「我らスメラミコトもお忘れ無きように。遥か昔から受け継いできた武士の魂を、皆様の目にも焼き付けて見せましょう」
礼儀正しく静かに語る徳川慶喜公。背後には黒に近い青の鱗を輝かせる東洋龍が、猛々しく天に向かって吼えていた。
「ふふ。なら、私共は騎士の誇りを見せつけてあげましょうか。我が国が誇る円卓の騎士の名の重みも、それで充分にわかることでしょう」
艶やかに微笑むグィネヴィア女王陛下。その背後で大きく翼を広げた赤き龍が、咆哮と共に赤々とした炎を吐き出す。
「ノルドの戦士を忘れてもらっては困るんだがな。これを機に、我が国の戦士の力を覚えてもらうのも悪くないか」
そう言う皇帝イヴァンの表情には笑みが浮かび、その背後ではヴァイキングの姿をした巨人が武器を掲げて叫んでいる。
「やれやれ。我が国もそれ相応の武威を示さねば、大国の名を辱めることになりそうだ」
そんな事を言っておきながら、シャルルマーニュ陛下の顔には獰猛な笑みが浮かんでおり、背後では黒い巨鳥が翼を広げて大きく鳴く。
「ここまで来ると、魔王軍が可哀想になってきますね。まぁ、だからといって加減するつもりはありませんが」
猛る王者の威風を見ていて、ふとそんな言葉が口から出てしまった私。それを見ていた皆様曰く、私の背後には六対の翼を広げる天使が浮かんでいたとか。
「「「これ、絶対場違いだって…………!」」」
尚、端っこの方ではティリエラ王女の赤毛のコアリクイと、マリアステラの白い鳩、アローネの青い金魚が集まってぷるぷるしてた。やっぱオーラの差ってしっかりわかるもんなんだね。
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