第766話
アルルマーナの街をのんびりと歩いているが、大き過ぎず周りに影響を与え過ぎない程度の、比較的人に受け入れられているモンスターがあちらこちらで姿を晒している。
「最初こそ街に入れてどうなるか危ぶんだ者が多かったようだが、今は完全に良き隣人として受け入れられているようだな」
「まぁ、彼らのお陰で治安も急速に良くなったからな。子供が好きなモンスター達が孤児院等で子守をしているというのも、この街の住人に受け入れられている理由の一つだろう」
空を見上げればワイバーンやロック鳥のような大型の飛行可能なモンスターが通過していき、建物の屋根の上にはモンスターである小鳥の群れが大量に集まって喧しい程に
そして街の中では、重そうな荷物を積んだ荷車をクマやゴリラ系の子達が押して運んでいて、子供達がオオカミやイヌ系のモンスターの子供と一緒に駆け回る。
危険なモンスターであることをすっかり忘れたかのようなその光景に、帝国が滅びた事による一つの時代の変化を感じていた。
「いや、時代の変化というよりアマネがもたらした変化だろう」
「……心読むのやめてくださ〜い」
うん、流石にわかってるけどね。モンスターの凶暴性とかそこら辺は帝国関係無いし、こうして大人しくしているのは私が関わっているからってしっかりわかっている。
ただまぁ、平和な時代が訪れた事に関しては間違いはない。これからは、ゼウスらの気分一つで悲惨な運命を辿る人は生まれないのだ。
「表だと結構見掛けてたんだがな。街中だと英霊の姿はあまり見ないか?」
「いや、戦支度を整えている者が多いからな。もしかしたら、既に戦場の予定地へと足を運んでいるのやもしれん」
そんな中、ゴリアテと龍馬が気にしたのはモンスターの総数にも負けず劣らずの英霊達についてだ。
街の中を見ていれば、確かにモンスターと比べたらの話だし、ホントに多少ではあるが英霊の姿はあまり見当たらない。
スメラミコトの武士もシン国の武将も、戦争の時に蘇った世界各国の兵士の姿も、見ている限りではそこまで多くない。
聞いていた話だと、英霊となった兵士や戦士、将校や王族の数だけでも数千万を超えていて、明確な人数を把握するのは砂漠の砂を数えるのと同義と言われる程だと、終わった後で信長にそう言われた。
それ程の人数がいるのであれば、この聖都にもそれ相応の英霊達が居てもおかしくないと思っていたのだが……
「英雄ではなく英霊であるからな。あまり人の世に干渉して大きな影響を与えるのも良くないと考えているのだろう」
「帝国とは派手にやり合ったのに?」
「やり合ったからだろうさ。もう既に、彼らが戦うべき相手はそこまで残っていない」
ロビンが「残っていない」と完全に言い切らないのは、宣戦布告した魔王軍との戦いがまだ控えているからだろう。
そうでなければ、英霊達は己の使命や役目を果たしたとして冥府に帰っていてもおかしくはない。
「まぁ、実際のところは街の中でジッとしているのが性に合わないというだけなんだがな」
「……そうなんですか?」
「実はそうなのよね。掲示板でも既にそれ関連の板が乱立しているわよ」
……オデュッセウスの言葉をエリゼが肯定しているのだが、英霊達はただ単に戦いたくてしょうがなかっただけだったようだ。
戦場予定地にいるのは変わりないが、そこで世界各国の英霊達と出会った結果、それぞれの軍で模擬戦だったり力試しだったり、一騎打ちの真剣勝負を行っていたりして楽しんでいるらしい。
そこにはモンスターもいるし、プレイヤーも混ざっているので、正直に言うと予定地は戦場というよりフェスの会場みたいな状態なんだとか。
「……黙っていて申し訳無いのですが、既に現地に到着した工作班が、アマネ様の為にライブステージを建設しているのです」
「ちょっと待って。なんでそれを黙ってたの、ガラティア?」
「……既に用意するか用意を始めてしまえばアマネ様は断らないと思ったので」
確かに事後承諾って形だったら私も大抵の事は断らないけどさ? せめて一報くらいは送って欲しいんだよ、私も。
そうでないと、今は私の方に運営から色々と自重するように言ってくれってメッセージが届いちゃうんだからさぁ……
まぁ、運営からは明確にどれぐらいの規模って指示がないのも悪い。なので、私個人の範疇と認識の範囲内で自重することにしてる。
それを考えれば、ガラティアの事後承諾と実際に建設が進んでいる会場についても、その自重の範囲内ということで許可しちゃっていいだろう、うん。
「よくないですよ!? なんでもういっか〜、みたいな感じで首を振っているんですか!?」
「ちょっ!? 主任!? 流石に運営用アバターで接触はヤバいですって!?」
「うわ出た運営だ」
「うわ出たって何よ、うわ出たって!?」
どうやら、私の考えを察知した運営が我慢出来ずに飛び出してきたらしい。取り敢えず、怒っているのが主任ってことと、それを抑えている男性が味方ってことはわかった。
急に現れた二人組にモードレッド達が警戒を顕にしているが、私の言葉を聞いたユーリ達が慌てて宥めているので、多分即殺は無いと思う。
「とは言っても、あの戦争が起きた時点でもう自重も何も無いのでは?」
「ゴフッ!?」
私の至極単純且つ素朴な疑問をぶつけてみたら、ボディブローを食らったかのように体を折り曲げて腹を抑える主任。
「そりゃそうっスよ。アマネさんが完全に重要NPC化しちゃってるんだから、あの戦争が起きた時点で抑えなんて効きませんて」
「だからNPC言うなし」
「いや、アマネさんはプレイヤーですけど、システム的にはNPCの扱いなんスよ?」
「…………えっ?」
なんかすっごい衝撃的な発言を聞いた気がする。え、何? 私ってプレイヤーだと自負していた重要NPCだったの?
衝撃的な事実を聞いてその人に詳しく説明してもらうと、まぁ色々と心当たりのある事がポロポロと零れ落ちてきた。
まず、説明してくれた開発班の人。以降は開発班と呼ぶことにするが、その人曰く私が一番最初にチュートリアルと共に取得する筈だった冒険者ギルドカードの不足。
それがこの世界に於ける運営の監視カメラ的な役割を果たしていて、所持しているプレイヤーに関しては運営の目で確認が出来ていた。
しかし、私が持っているのは冒険者ギルドカードではなく、商業ギルドのカード。実はコレ、将来的にボスの攻略で詰まるであろう生産職関係のプレイヤーの為に用意してあったものらしい。
ボスが倒せず攻略が詰まってしまう。先の街に行けない、入れないではプレイヤーのモチベーションも下がってしまう。
それをどうにかするために、一定のスキルレベルや特定のクエストのクリアを条件として、商業ギルドから私が持っているようなカードを発行してもらえるようにしていたそうだが……
「まさか、商業ギルドの最高ランクのカードを渡されるとは思ってもいなかったんスよね……」
「……確かに、異界人がこの世界に降り立ってそれ程長い時は過ぎていないのに、商業ギルドが最高位の者に与えられる最上級のカードを発行しているのか」
プレイヤーの事情をしっかりと知っているわけではないモードレッドも、改めて振り返ってみてそのイレギュラーさに気付いたようだ。
「冒険者ギルドのカードは異界人の実力を形にしたものなんスが、言ってしまえばコレって次の街に行けるだけの実力を身に着けてから行ってくれっていう、一種の行動の指針になるものでもあるんス」
「あー……なんか色々と腑に落ちたな。異界人の動向や素性を警戒してフランガ王国が動いてるとは聞いちゃいたが、それとなくそちらさんで思考の誘導などもしてたってことなんだな」
「ぶっちゃけると、アマネさんがモードレッドと出会った時点で、ゴリアテの言う誘導関係にブレが生じてるッス。完全に無効化されたのは、ファフニールのところであのヤベェ奴等が生まれてからっスね」
「あ、それはホントに申し訳無いです」
「確かにアレは異常だったからね。そうか、それで異界人側の上層部が後手後手に回っていたのか」
ファフニールのところのヤバい奴等というのは、どう考えてもあの時誕生したデータ組のことだろう。現場に居合わせてそれを知っているルジェが、運営の不手際の多さに納得したようだ。
「運営の事だから、最悪ロールバックや緊急メンテという手段を取るかと思っていたんだが……」
「……ぶっちゃけて言っちゃうと、アマネさんが知ってるあのデータ系モンスターに、運営権限の大半を持ってかれてるんスよね」
「ちょっ!? それ機密事項よ!?」
「いや、データ系モンスターがアマネさん側なんで、こっちで黙ってたって何れバレるッス」
お腹を抑えて突っ伏していた主任がガバッと起き上がり、開発班の男性に掴み掛かるような形で詰め寄っている。
てか、運営の権限の大半を持ってかれてるって、データ組の子達暴れ過ぎでは?
「……流石に可哀想だから、運営の人達のお手伝いをしてあげてね?」
『モチのロン! 今、頑張って
試しにそう言ってみると、ピコッという音と共に空中に半透明の青いウィンドウが浮かび、今行っている事の簡単な内容を教えてくれる。
「……えっ? ちょっと待って!? もしかして、サーバー拡張してるの!?」
『そだよ~! 新しい人達がこの世界に来れるように、皆で調整中〜!』
――――どうやら、データ系の子達が運営に成り代わったようです。今後のアップデートも彼ら主体になるんだろうか……?
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