第765話

 目の前にまで見えてきている都市こそ、聖教国の首都である『聖都アルルマーナ』だろう。というか、そうじゃなかったら一体何処に向かって進んでるんだと言いたくなる。


 聖教国は北と東にキャメロット、南にマルテニカ連邦がある、それぞれの国に挟み込まれた小さな国。単純な国土の広さではフランガ王国の方が広いまであると言われている。


 これにもしっかりとした理由があり、まず聖教国が出来た際にはマルテニカ連邦も誕生していた。それにより、聖教国の領地に出来そうな場所の多くがマルテニカ連邦に抑えられてしまったのだ。


 そして、モンスターの強さというのも国土を広げる妨げになっている。というか、聖教国を北に進むとモルガンの居城であるアルビオンまで徒歩で行けちゃったりする。


 多分、本来の正規ルートは聖教国から北に進むルートなのだろう。私のように、地下水脈から無理矢理アルビオンに向かう方がおかしいのだ。


「ユーリ達はまだ時間が掛かりそうかな?」


 試しにユーリにメッセージを送ってみるのだが『めっちゃ硬くて時間がヤバい!』というメッセージが返ってきたので、どうやら防御力特化のヤバいアベンジャーが相手っぽい。


 物理攻撃に強い相手なら魔法使い……と思ったが、いつメンの魔法使い枠であるオデュッセウスは私の護衛として残ってるんだった。


「仕方無いし、誰かに支援を頼もうかな……」


 これ以上時間を掛けてしまうと、皆が着く頃には夜まで来てしまう。そう思い、友人帳の誰かに手助けを頼もうと開いた時。




「アマネ様。支援攻撃なら私共にお任せを」


「え? あ、ガラティア――――」










『大至急航空支援を要請する。攻撃部隊B出動。正体不明の標的を攻撃せよ』









「……日本語でOK?」


 なんか、ガラティアが無線機らしきものに向かって物凄い長文を早口で喋ったんだけど、これって大丈夫なヤツなのかな?


 と、そんなことを考えていると、物凄い速さで戦闘機が上空を通過して、先程まで通っていたキノコ岩の街道方面へ飛んでいく。


 それに追従するように、巨大な輸送攻撃機も皆が戦っているであろうエリアに向かって飛んでいった。


「……アレ、大丈夫なヤツですかね?」


「私に聞くな。第一、その手の兵器はアマネの方が詳しいんだろ?」


「いや、魔改造されてたら私にはわからないですからね?」


 ただでさえゴーレム達は魔改造好きなのだ。戦闘機にレールガンが装備してあっても私は驚かない。


 と、そんなことを考えていたからなのだろうか。ユーリから『巻き込まれて死ぬぅゥゥゥゥッ!?』というメッセージが…………


「…………無事を、祈りましょうか」


「…………そうだな、そうしよう」


 取り敢えず、手を合わせて南無とだけ心の中で祈っておこう。多分、縁はあるから御利益もある筈だ。
















「ま、マジで死ぬかと思った……」


 十分くらいして、ユーリ達はメタルスケルトンが操縦するハーキュリーズに輸送されて、聖教国の入口付近に到着した。


 航空支援の内容としては、ストライク・イーグルによる機銃掃射と誘導ミサイル。そしてケツァール・フォートの機関砲だったらしい。


 今回出現したアベンジャーであるメタルマシュロックというモンスター。物理攻撃にめちゃくちゃ強い金属の体を有する巨大キノコ型の岩は、ハーキュリーズのワイヤーフックに吊り下げられている。


 どうやら、ユーリ達を輸送するついでにワイヤーフックを引っ掛けて回収してきたらしいが、その表面は機銃掃射や機関砲を受けたからかベコベコに凹んでいて、更にはミサイルの爆発による焦げ付きまで見えていた。


 そのまま、メタルマシュロックはハーキュリーズに吊られた状態で、何処か遠くへと運ばれていく。子牛と言うにはメタリック過ぎるか。


「まさか、航空支援が来るとは思わなかったな……」


「彼処だけ時代が現代でしたわ……」


 目立った傷は無いが、ユーリ同様疲弊しているフロリアとエリゼ。第三回イベントの時に思いっきり銃撃して殲滅したと思うんだけど、それは無かったことにしてるのかな?


 まぁ、何はともあれこれで全員揃ったわけだし、このままアルルマーナの中にお邪魔させて貰おうか。


「おや、また異界人の……いえ、もしや貴女様は!」


「もしかしたら、言伝など受け取っているのかもしれませんね」


 皆でアルルマーナの門の前に行くと、門番の人が私を見て驚いた表情に変わる。何か思い当たるようなことを言っていたようだし、もしかしたら上の人から何かしら言われているのかもしれない。


 そう思いながら、私は懐のギルドカードを門番の人に見えるよう提示する。


「……確かに確認致しました。お連れの皆様も、どうぞお入り下さいませ!」


「ありがとうございます!」


「……ホントにフリーパスなのね」


 私の持っているカードの効力を目の当たりにして、エリゼが呆れたような声でそんな言葉を口にした。


 まぁ、普通だったら冒険者ギルドカードを掲示しても門前払いとかあり得ただろうからね。私のは商業ギルドで発行された最上級のカードだし、そんな心配は殆ど無い。


 さて、そんなことよりも皆でアルルマーナの中へとお邪魔させてもらったわけだが、取り敢えず一見した感想はギリシャとバチカンの街並み、後は欧州の教会とかが建ち並ぶ街、って感じかな。


 帝国とは違う、しっかりとした宗教国家ってことでもしかしたら宗教の押し売りとかあるのかな。と思っていたが、それをやるのは帝国くらいなものだと一度脳内をリセットする。


「……普通に平和そうな街ですわね」


「あぁ、そうだな。世界中に災禍をもたらした神を崇める国とは到底思えない」


 エリゼとフロリアの言葉が、プレイヤーが抱いている感情や思考の答えとして発される。なんか、あちらこちらで宗教関係者らしき人達がダメージを食らっているが、見なかったことにしていいかな?


「取り敢えず、今回泊まる宿を探した方がいいのかしら?」


「……アマネは恐らく『上』が部屋を用意していると思うが、フロリアやエリゼのことを考えれば宿を探しておくのは悪くない筈だ」


 上というのは、聖教国の上層部の人間ということだろう。枢機卿とか大司教とか、そんな感じの人が一介のプレイヤーである私に泊まる部屋を用意してくれているんだろうか。


……いや、用意するか。私は単なるプレイヤーだけど、役職的には世界各国に伝手がある歌姫だもんね。


 変に冷遇したと思われたら、その時点で世界各国が聖教国を白い目で見始める。場合によっては帝国で絶えた主神教徒を名乗る背教者達と同じ場所に送られると、関係各所が焦っていてもおかしくはない。


『アマネ様もそうですけど、ルジェにも私の方でよしなにと頼んでいるのよ』


「既に死んだとはいえ聖女と呼ばれた者からの頼み事だからね。それに、ジャンヌ以外の方々も今回の件で相当な根回しをしてくれているみたいだよ」


 どうやら、今ある国々のトップに加え、英霊の中でも聖女と呼ばれている人達や亡国の王達による要請が、ここ聖教国の上層部に出されていたらしい。


 英霊の多くは自らの崇める神によって天に召されたという事もあるし、世界各国に干されたら聖教国は帝国と同じ末路を辿る。それを回避するべく、今目の前で子供と戯れているような一部のモンスター達の都入りも認めているのだ。


 まぁ、流石に大き過ぎるモンスターだったり周りへの影響が深刻だったりするモンスターは遠慮しているようだが。


「ま、なるようになるさ。このままゆっくりと散歩でもしつつ、中央の大聖堂まで向かうとしようか」


「そうですね。それじゃ、大聖堂まで行ったら各々解散という形にしましょうか」


「さんせー!!!」


 ということで、ユーリ達と聖教国の大聖堂まで見に行ったら、皆との旅は一回一区切りとしようか。

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