第764話
暇を持て余したので皆が戻ってくるまで一人で歌っていると、周りの岩が途中から切れたように無くなり、代わりに多くの鳥が空を飛ぶ街道に切り替わる。
どうやら、キノコ岩の街道から別の街道に入ったらしい。それと同時に、また新しいモンスターが大きく羽ばたきながらサブストレントの周りに集まってくる。
「折角だし、演奏しながら構ってみようかな」
「出来るならやってみたらいい。アマネの腕なら、失敗してもどうにでもなるだろうからな」
オデュッセウスの一声も貰ったので、のんびりとガイスターをピアノに変えて、ドラムとベースの音も出してもらう。
取り敢えず、ジャズアレンジメドレーって感じで暫く演奏するとしよう。止め時は……皆が戻ってきた時とか、何か大きな事が起きた時にしよっかな。
譜面台に友人帳を広げて中を見つつ、脳内の譜面で指先は鍵盤を一つ一つ丁寧に叩き始める。
それでいて、今はサブストレントの枝に止まっている鳥達にも気を向けないといけないのだ。忙しくてちょっとばかり笑いそうになってしまう。
まぁ、そんなことはもうどうでもいい。演奏を続けながら、早速一ページ目の子について色々と見ていくとしよう。
最初にきたのはハミングバード。鳩くらいの小さめサイズな鳥で、見た目は真っ白なウグイスだ。
名前にある通り鳴き声がとても綺麗な鳥で、彼らの歌には回復効果やステータス強化のバフ効果がある。
それも、数が増えれば増える程その効力も強くなる。ふと思ったけど、もし私が歌っていたら彼らの輪唱も一緒に合わさったのだろうか。もしそうだとしたら、効果がとんでもないことになりそうな気がする。
「ある意味演奏だけにしたのは英断だった……?」
「本気を出したら歌でも演奏でも大差無いだろう」
オデュッセウスに言われた通り、本気でやると歌でも演奏でもぶっ飛んだバフが発動したり大魔法が発動したりするね。うん、ホントに大差無いわ。
それはさておき、次のページはジャミングバード。なんかすっごく名前が似ているような気もするが、見た目が白いオウムに変わっているのでちゃんと別種であるらしい。
こちらも名前にある通り、喧しい鳴き声によるジャミング。つまりは魔法の妨害を得意としている鳥であるそうだ。
詠唱中の魔法使いや僧侶に鳴き声で横入りし、その魔法の発動を阻害する。防御力に乏しい分、動きが結構速いので倒すのも一苦労。
一般的な評価としては戦場に紛れられると厄介極まりない鳥。尤も、今は大人しく私の演奏に耳を傾けて首を振っているのだが。
それと、もう一羽が次のページに記載があるホーミングバード……もしかして、ミング系列? ミングバード系で揃ってるの?
ホーミングバードは同じくらいのサイズのキツツキっぽい鳥で、狙った相手の急所目掛けて飛んでいくかなり危険なモンスターだ。
とは言っても、大きさとしては鳩くらいのキツツキであり、追尾性能の高さが武器の鳥だ。実は、盾を前に出すだけで案外簡単に攻撃を防ぐことが出来る。
それどころか、盾の材質によっては鋭い嘴が刺さって抜けなくなり、そのまま柔らかい防御力という弱点を突かれてボコボコにされることも多いそうだ。
ただ、そんなことよりもちょっと重大な問題と言うか、個人的にヤバい問題に突き当たっていた。
「……どうしよ。思ったよりしっとりし過ぎて、逆に眠くなってくるんだけど」
「……そうだな。こう言ってはなんだが、気付いてくれて助かったよ」
どうやら、オデュッセウスも同じことを考えていたらしい。ジャズアレンジは安眠効果抜群だったらしく、よく見たらジャミングバードもリズムに乗っているというより船を漕いでいるというのが正しいようだった。
「よし、テーマ変えよう! ここはやっぱり盛り上がる曲じゃないと頭が止まる!」
ということで、ガイスターをピアノからDJブース風の形に変えて、スピーカーの音量MAXで激しいリズムに合わせて歌う。
「……ククッ! これは、確かに目が覚めるな!」
先程までの落ち着いた空気から、一転してクラブのライブの様相に変わったことで、オデュッセウスも思わず笑い声を漏らしていた。
さて、この盛り上がったリズムのまま、友人帳チェックを続けるとしよう。
次のページに出てきたのはアックスバードという斧のような嘴のドードーみたいな鳥。ミング縛りでは無かったらしい。
体の大きさはダチョウくらいだが、その嘴の時点で武器が何かすぐに分かってしまう。
大きな嘴は破壊力に優れ、盾役の盾であっても何度も嘴を叩きつけられると真っ二つに割れる程。材質が鉄製だったり鋼鉄製だったりしてもお構い無しで叩き割ろうとするのだから尚恐ろしい。
でも、足が短めなので移動速度はそこまで速くないようだ。まぁ、速くないと言っても飛んでいる鳥達と比べたらの話なのだが。
それと、闘牛のような角が生えたオックスバードという鳥もいる。こちらも大きさとしてはダチョウと同じくらいというか、まんまフォルムはダチョウなのだ。
その立派な二本の角は鋭く頑丈で、アックスバードと違い疾駆するのに適した長い脚による走行は、角を活かした突進の威力を大幅に高めてくれている。
とはいえ、この鳥の性質は猪突猛進。イノシシ要素は皆無だが、一度走り出したらそう簡単には止まることが出来ない。
なので、魔法で壁を作ったりすると面白い程にそこに突っ込んで大惨事になったりする。炎の壁だと火が着いて止まらなくなるし、土や氷の壁だと突き刺さって動けなくなったり。
ダチョウはお馬鹿という話を聞いたことがあるが、彼らも見た目はダチョウに近いから同じなのかもしれないなぁ。
「曲を変えてから、面白い程に集まってくるな……」
オデュッセウスがそう言って木の上を見ているが、サブストレントの枝には数え切れない程の鳥系モンスターがワサッと集まっていた。
既に友達になっている子も混じっているし、重みで枝がポッキリ折れたりしないかどうかが心配になるレベルだ。まぁ、何だかんだボスクラスのモンスターの枝だから大丈夫だと思うけど。
さて、そんなサブストレントの枝にはハーピーと呼ばれているファンタジーでお馴染みな半人半鳥の亜人系のモンスターも集まってきていた。
その見た目は手足が鳥の美女ばかり。手は大きな翼で足は鳥の足、胸元は羽毛で隠されていて、成人向けになり過ぎない努力が施されている。
尤も、その性質は成人向け。女性だけの種族であるが故に他種族の男を伴侶とするのだが、そこまで筋力が無い為に巣に連れ帰る対象は幼い子供が多い。
お持ち帰りされた子供は丁重に扱われるが、現実世界の男性が聞いたら血涙を流すだろうハーピーのハーレムに歓迎されるので、まぁ色々と歪んでしまうよねって話だ。
戦闘能力はそこまで高いわけでは無いし、話せば分かるくらいの知能はあるので、場所によっては養い切れない子供をハーピーに嫁がせるところもあるという。
因みに、以前訪れたラミア達の集落も同じことをしているそうで、孤児や養い切れない子供を受け入れて、幼い頃から集落のラミア達に馴染ませているんだとか。何その異世界版光源氏。
「……ふぅ、ちょっと疲れたからここから演奏オンリーに切り替えよう」
「そりゃそうだろう。喉はしっかり労るんだぞ」
「勿論! 私から声が無くなったら……いや、演奏が出来るだけでも充分?」
まぁ、深く考えるのはやめておこう。それよりも、今はここのボスに目を向けるべきだ。
ここの街道のボスはレックスバード。羽毛に覆われた始祖鳥っぽいティラノサウルスな鳥で、大きな翼腕は滑空に使うことが出来る。
口はちゃんと嘴してるのだが、ギザギザとした鋭い牙がサメのようにズラリと並んでいるので、噛みつかれたらまずひとたまりもないだろう。
更には表面を覆う羽毛が一種の装甲の役割を果たしていて、弱い魔法や矢玉を簡単に弾き飛ばす事が出来る。
足もかなり速いし、長めの尻尾は強力な薙ぎ払い攻撃を放つ武器にもなる。スタミナ面に多少劣るところがあるらしいが、ぶっちゃけそれがあったとしても障害にならない程に強い。
でもまぁ、その強さも納得がいく。何せ、もうすぐこの百鬼夜行の終着点となるゴールが徐々に見えてきているのだから。
「オデュッセウス。彼処がそうなんだよね?」
「あぁ、そうだろうな。私もルジェ達から話だけ聞いているが、彼処が今回の目的地になるだろう」
――そう言ったオデュッセウスと私の視線の先には、とても大きな教会らしき建物の屋根が見える、城壁に囲まれた都市が見えていた。
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