第761話

 街道を進み、聖教国の首都に繋がる北西の道に曲がっていく百鬼夜行。ロードランナーの爆走を見ていると、ジャイアントモアがプレイヤーを背中に乗せて通過していったので、聞こえてくる絶叫に思わず笑ってしまった。


「乗れるのはいいが、よく考えないと酷い目に遭いそうだな……」


『乗り心地の良さと速度を両立しているのを探すのは大変だからな。竜種も種類によっては騎乗の向き不向きというのがある』


『地竜の類は比較的乗りやすいわね。火竜や雷竜は周りへの影響が強くて、耐性が無ければ乗っている人間の命が無くなるわよ』


 ドラゴンライダーとかドラゴンナイト、漢字ならば竜騎士みたいなものはこの世界にもあるらしいが、騎士が乗るのは亜竜であるワイバーンが殆ど。


 ちゃんとした竜種であるドラゴン系の竜騎士というのは基本的にはいない。勿論、それにはしっかりとした理由があるんだけどね。


 というのも、ブリュンヒルデが言っていた火竜や雷竜のような、竜種の属性によって騎乗者にも強い影響を与えてしまうからなのだ。


 例えば火属性の竜種だと耐性が無ければ騎乗者が焼死体に変わるし、雷属性だと感電死して、氷属性だと凍死か滑って転落死などがあり得る。


 その他の属性竜も、力が強いとその余波で騎乗者にも命に関わる重傷を負わせることがあり、相当な強者でないとれっきとした竜種に乗ることは不可能らしい。


「でも、お姉は大丈夫なんだよね?」


「属性関係はカッチカチだからね。具体的に言うと、大抵の属性なら食らっても効かないか逆に回復するから」


「なんか色々とおかしくありません!? なんで歌姫が下手な盾役より固いんですの!?」


 エリゼに思いっきりツッコまれたが、文句の大半は神々にお願いしたい。残りは私が木の実を不用意に食べたりして出来た耐性だから甘んじて受け入れよう。


 正直に言うと、属性関係の攻撃はほぼ全て無効化出来るか吸収してしまうので、今は魔法より何より物理攻撃と物理的な余波によるダメージが怖い。


「私、一発だけなら即死無効のお陰で耐えられるんだけどね~……」


「ちょっと待て!? 明らかに今の段階で取得していいような耐性じゃないだろ!?」


 エリゼに続いてフロリアからもツッコミが来たが、即死無効はチェルモチがくれたものだから、文句や苦情はそっちに投げてほしい。


 と、そんな話をしていると、街道の途中で広い湖がゆっくりとその姿を現し始めていた。


「ここは清風の湖畔道と呼ばれている街道だからね。あの湖畔は、通り抜ける風をとても涼しく心地良いものにしてくれるんだよ」


 モードレッドの言う通り、湖の上で冷やされた薫風のような風が、下草を何度も揺らしながら静かに吹き抜けている。


 清風の湖畔と呼ばれている湖の側を通るから、この街道は『清風の湖畔道』と呼ばれている。凄くシンプルだが、わかりやすくていいと思う。


「見た感じ、ここの湖畔が休憩地点になってるみたいね。人もモンスターも大勢集まっているわ」


「まぁ、バカンスには丁度いい感じもするからね」


 普段は旅人や行商人が立ち寄って休憩するだけの湖畔ではあるが、百鬼夜行が通過している今はプレイヤーの屋台まで立ち並ぶ宿場町みたいになっていた。


 湖畔の砂浜には日向ぼっこするカメ系のモンスターが並んでいるし、それらを避けながらイヌやオオカミなどの姿をしたモンスター達も追いかけっこを楽しんでいる。


 また、喉が渇いた子達は直接湖畔に顔を付けて水を飲んでいるようだ。時折、後続に押されて湖の中に入ってしまう子も混じっている。


「沖合……湖も沖合でいいのかな? わかんないけど、サーフィンを楽しんでる人もいるね」


「まぁ、これだけ広ければサーフィンも出来るでしょうからね」


 多分、湖の大きさ自体は琵琶湖とかそのレベルの巨大湖だと思う。空からの写真とかがあればハッキリするんだろうけど、今は手元に無いからわからない。


 ガラティアに聞けばイグニッションフレアからの衛星写真を確認出来るだろうけど、今はここにいないからなぁ……


「丁度いいし、私達もちょっと休憩しよっか」


「ん。お昼ご飯には丁度良き!」


「屋台の料理、全部買い漁るか!」


『そうだな。各種一つずつ買ったとしても余裕で平らげるだろう』


 ということで、私達は湖畔の休憩地でゆっくりと昼食を取ることにした。屋台飯とか、現実でも早々食べた経験がないから楽しみだ。














 ランドトータスが湖畔の水をガブガブと飲んでいる姿を見ながら、私達は砂浜の上に敷かれたシートの上でゆっくりと屋台の料理を食べて楽しんでいた。


「ん〜っ! これ、外はカリカリ、中がトロトロ熱々で美味しい! タコってこんなに美味しいんだね!」


 アスラウグは屋台で売っていたタコ焼きを頬張りながら、ホフホフと息を漏らしつつそう口にする。


 このタコ焼きは関西出身のプレイヤーが作った代物で、実家がたこ焼き屋であるためにかなり拘った一品であるらしい。


 材料の多くはスメラミコトの武士達から提供してもらったものもあるが、それでもその素材でここまでの一品を作れるのだから、流石プロと評したくなる。


「お好み焼きともんじゃ焼きが隣同士の屋台で売ってたわね……」


「美味いから別に気にしなくてもいいだろ!」


「あ~、やっぱり肉はがっついてなんぼだよな!」


『む、骨付き肉か。何処の屋台で売っていたんだ?』


「奥の方でヴァイキング達が作っていたのを買ってきたんだよ」


 各々が食べたい物を片っ端から買ってきているので、美味しそうなものが大量に並んでいて見ている人達も購買意欲が刺激されているらしい。


 チラッと周りを見てみれば、食べ物系の屋台に並ぶ客足がどんどん増えているし、私の耳はこちらを見たプレイヤーの「あれ美味そうだな……」という声をしっかり聞き取っていた。


「……あれ? あの子達って、もしかしてこの近くに住んでいる子達かな?」


 そんな中、ふと水を飲んでいる馬達を見てみると、その中に見慣れない馬の一団が紛れ込んでいることに気付く。


 私も色々な子達と出会ってきたけれど、友達になっていない子はなんとなく感覚で分かる。


「あれはトラベラーホースの群れだな。臆病だから軍馬には向かないが、スタミナは並の軍馬を超えているから旅行には向いている」


『私も巡礼の時にはお世話になったわね~』


 トラベラーホースは旅人向けのウマのモンスターであるらしく、広い大陸を群れで駆け回る遊牧民ならぬ遊牧ウマであるらしい。


 その気質は臆病で温厚なため、軍用のウマとしては全く向いていない。だが、スタミナ面は軍馬以上のものがあるため、交配などをして高いスタミナ面を引き継いだウマもマルテニカなどでは育てられている。


 尤も、臆病というのは肉食系のモンスターに対してのことであり、人間に対しては侮っているのか蹴りをかましに行くことがあるそうだ。


「湖にいるのはワイバーンフライとアクアガンスリンガーだな。それと、向こうにいるホーリースワンは聖教国の国鳥だ」


「それにバウンドフロッグもいるようだな」


 湖の上を飛ぶワイバーンフライという巨大なトンボが、アクアガンスリンガーという巨大なアメンボと速さ勝負をしている。


 ワイバーンフライはグライダーサイズの巨大なトンボで、鋭い顎と素早い飛行能力が武器のかなり危険なモンスターだ。


 尤も、素早さに極振りしたかのような彼らは防御力と持久力に乏しく、突撃したところを盾で殴られてそのまま潰れてしまうことも多々あるらしい。


 そして、アクアガンスリンガーは湖の上を滑走しているアメンボで、なんと水弾を高速で発射することができる射撃兵でもある。


 動きが速いのは水面限定なので、水の表面を凍らせるなりなんなりすれば、あっという間に勢いを失って鴨撃ちの的になる。


 とはいえ、この湖の表面を凍らせるのは一苦労どころじゃない苦労が必要になるだろうが。


 それと、そんな二種を我関せずと無視して、のんびりと湖の上を遊泳しているホーリースワン。


 聖教国の国鳥にもなっている白鳥のモンスターであり、その羽根には聖なる力が宿っている。水に浸していると、その水が浄化されて聖水になるらしい。


「ホーリースワンの寝具は超高級品だ。使うと悪夢も夢魔も寄せ付けないと言われている」


「実際、浄化の力も強いから本当に寄せ付けないんだよね」


「……というか、バウンドフロッグのいる小島もモンスターでは?」


 バウンドフロッグという水を蓄えてブヨブヨのカエルがいるのだが、そのカエルを乗せた小島もゆっくりと動いているのだ。


……あ、バウンドフロッグは危険を感じると口から水を吐き出して逃げ出すカエルで、タプタプの体を使った体当たりが強力なモンスターらしい。


 で、そのバウンドフロッグを乗せている小島が、ゆっくりと湖面から頭を出す。何処からどう見ても、ミドリガメ系の愛らしい顔だ。


「あれはアイレットータスだったみたいだな」


「主に河川や湖沼にいるカメだよ。大きいとアスピドケロンクラスにまで成長するらしい」


 アイレットータスは島のような甲羅を持つ淡水版のシマガメらしい。流石に海のモンスターではないのでサイズは抑え目だが、それでもかなりデカいけどね。


 ちなみに、このアイレットータスはこの湖のボスなので、フェリーくらいの大きさはある。


 これでも海にいるシマガメやアスピドケロンと比べたら小さい方なんだよね、うん。

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