第759話

 残党軍の殲滅戦はアッサリと終了した。最終的にはゴリアテとシグルドが大暴れして終わったようだが、戦利品的には結構渋いようだ。


『殆ど数打ちの品でな。売りに出したとて二束三文がいいところだろう』


「この性能だと確かにな……プレイヤーの市場に流せば需要はあるだろうが、このレベルの品はそろそろ市場に流れ始める頃でもあるから値はたかが知れてる」


「とはいえ、後進の事を考えれば薄利多売で流すのも有りかもしれませんわね。プレイヤーメイドはプレイヤーメイドで、しっかりとした職人に依頼出来る可能性という副産物がありますし」


『正直に言えば、装飾品よりも部屋に置いてあった家具の方が高いのではないかと思うところがあったな』


 ガシャガシャと乱雑に積み重ねられているのは、残党軍が使っていた剣や槍などの武器類に、盾や兜などの防具類。


 国外に逃げ出した下っ端の兵士に優秀な装備が持たされているわけがなく、あるのは帝国で造られた数打ちの量産品ばかり。


 一部のマニアにはそれなりの値で売れるかもしれないが、士官が付けていた腕章などからも分かる通り、大半は下級の兵士の装備品。とてもじゃないが値など付きはしない。


 それに、性能としてもプレイヤーが作る武器類とどっこいどっこいのものばかりで、鋳潰してインゴットに変えた方が高いのではないかとさえ言われている。


「ところで、ホントにそちらは持ち出さなくていいんですか?」


『そりゃまぁ当然だな。こんなガラクタやナマクラなんざ、あったところで邪魔にしかならねぇ』


 そう言って首を振る戦士の一人が、英霊達の心情を如実に表していた。まぁ、確かにプレイヤーも使わなくなってくるというか、プレイヤーの間でも珍しくなくなってくる代物は彼らにとってのガラクタか。


 目立った性能があるわけでもなく、可もなく不可もなくな武器や防具は、そのままプレイヤーの間で欲しい人が持っていくことになった。


 とはいえ、プレイヤー側としても予備武器としてしか使い道がなく、やっぱり鋳潰してインゴットに変えた方が便利なんでは? という考えがかなり蔓延していた。


『しかしまぁ、随分と面白え連中だな。見た目に拘ったってのはわかるが、殆ど大道芸人と同じようなもんだろ、アレ』


「殆どネタ枠ですもの。でも、それで最初期から貫き通そうとしてるんだから、根性だけはしっかりとしたものがありますわよ」


 プレイヤーの中にはかなり派手な見た目をしている者もおり、いろんな意味で他の人達の視線を大量に集めていた。


 ベイト、つまりは囮役としてその格好をしているのなら大成功と言っていいだろう。問題は、本人達にそんな意識がないというところなのだが。


「ウチ、物語の主人公の真似する奴が多いからな。こっちだと必殺技の真似も出来るって、めちゃくちゃテンション上げてるやつもいんだよ」


「なるほどね。道理で普通の技に妙な名前を付けて戦っていたわけだ」


『まぁ、気持ちはわかるな。俺も、まだまだ新米だった若い頃は、名高い英雄の話を聞いて技を真似ようとしたもんだ』


 今の会話で一部のプレイヤーがダメージを食らい、そして英霊の戦士の言葉でそれなりに多くの英霊達がウンウンと頷く。


 どうやら、中二病とは言わずとも似たような症状を発症するのは、現実もこの世界も変わらないらしい。


 誰もが通る道だと笑う人の追撃は、グサグサと一部のプレイヤーに突き刺さり、ビクッビクッと痙攣して地面に倒れ伏して悶絶させていた。


「てか、やろうと思えばマジでこっちでも使えるんじゃね?」


「いや、流石に無理がありそうだけど……」


「つっても、その英雄様が揃い踏みだろ? 一部の技ならマジで実現可能かもしんねぇじゃん!」


 ちょっと熱くなっているエルメ。彼女にも憧れる技があるのかもしれない。


 でもまぁ、エルメの言ってることもワンチャンあるから何とも言えないと言うか、なんというか……


「……今度、参考資料など用意しておいてくれ。実際に実現可能かどうか精査はするし、使えそうならこちらとしても手札の一つに加えたい」


「……マジで?」


 しかし、意外なことにオデュッセウスからそのような言葉が出てきたことで、倒れ伏していた面々もガバっと起き上がって目をキラキラさせ始める。


……これは、また魔改造が進むんじゃないだろうか。流石に私は責任取れないぞ、コレ。













 殲滅戦が終わって再び聖教国行きの旅を再開したが、プレイヤー達が増えたことで道中が凄く賑やかになっている。


「プレイヤーの中には西側のマルテニカの街から行く者もいたんだがな。殲滅戦の参加の為に駆け付けたことで、もうそれもどうでも良くなったんだろう」


 西側の街の方から進んだ方が距離的には近いので、プレイヤーの多くはそのルートで聖教国に入る人が多い。


 だが、今回の残党軍殲滅戦の発生で予定を変更し、急遽ペラントの街から山道に駆け付けて参戦したプレイヤーが大量発生。


 その結果、この流れに乗って英霊達やモンスター達と親睦を深めながら、サファリパークより種類も多くド派手さも勝る百鬼夜行に同行していた。


「異界人のノリには中々ついていけないだろうなと思ったけど、話してみると案外常識的な者が多いね」


『ロマン兵器、だったか? あの手の話は好む者は好むだろうしな』


 ロボアニメ好きなプレイヤー達が、そのロボ風味の鎧や盾を使っているという話を聞いて、そのような会話を交わすルジェとシグルド。


 多分、ロマン兵器云々に関してはウチのゴーレム達とガラティア辺りが好みそうな話だと思う。問題は、話を聞いた瞬間に開発計画まで進むことだけど。


「そう言えば、ここはまた別のエリアですよね?」


「大蟻の平原だな。馬鹿デカいアリが徘徊してる広い草原だよ」


 山道を抜けた先の平原は大蟻の平原と呼ばれているエリアで、名前にある巨大なアリが辺りを彷徨いている危険地帯の一つらしい。


 曰く、働きアリでもかなりの強さがあり、兵隊アリになればその顎の力でアッサリと体を上下に両断されることもあるという。


「ほら、彼処にワーカーアントがいるよ。アレがここに住む大蟻の一種だ」


「デカいはデカいけど、似たようなのには会ってたりしますからね……」


 ワーカーアントという名のまんま働きアリだが、その大きさはセダンサイズ。それでも、増殖したら地球防衛待ったナシの巨大さだ。


 でも、アレで働きアリなのだから、戦闘能力に関しては兵隊アリよりも劣っている。


「お、ソルジャーアントにシューターアント、それにガードアントまでいるじゃねぇか!」


「兵隊アリにもバリエーションがあるんですね」


 ソルジャーアントは一般的な兵隊アリだ。顎がとても大きくて、一噛みで針葉樹や広葉樹の大木も切り倒せるらしい。


 噛みつき攻撃ばかりしてくるが、甲殻も結構硬いので武器が壊れることも多々あるそうだ。尤も、武器より先に盾や鎧が壊れる事の方が多いというが。


 そして、蟻酸を武器とするシューターアント。ちょっと大きめのお尻から蟻酸の弾を発射し、敵を防具諸共焼きにくるのが彼らである。


 少なくとも鉄製の装備はかなり耐久値を削られるらしく、生身で触れれば焼け爛れて地獄の苦しみを味わうことになるという。


 そんなシューターアント達の壁になるガードアントは、顎こそそこまで大きくはないが分厚い甲殻に覆われていて、敵の攻撃を受け止めることに重きを置いているとすぐに分かる見た目をしている。


 実際にその甲殻は物理攻撃に非常に強く、脳を揺らしたり魔法で攻撃したりしないと、まずまともにダメージが入らないそうだ。


「あとは、そこにキラーアントがいるな」


「アサシン系のアリだったか。油断していると後衛が彼らに潰されて酷い目に遭うんだよな……」


 遠い目をしたフロリア。キラーアントは気配を消すのがかなり得意な小さいアリで、大きさはマウンテンバイクくらい。


 尤も、小さいと言っても他のアリと比べてだから、背後から奇襲されれば体格の割に立派な顎で頭や首を噛み千切られ、瞬く間に戦線を瓦解させる大きな傷を作りに来るのだ。


「で、彼処から頭を覗かせているのが女王アリであるクイーンアントね」


『クイーン級は早々表には出てこないんですよ』


『あの個体は頭を出してこっちを見ているけどね』


 ヒビキ達が言うクイーンアントは、この大蟻の平原のボスである女王アリ。その大きさは防衛軍に出演出来る程の巨体で、全体的にステータスも高い。


 オマケに他のアリ達を統率するスキルも有しているので、クイーンアントが戦場に出るだけでアリ達の強さが全体的に跳ね上がるそうだ。


「ちなみに、炎には弱いから火矢か火魔法で嵐を作るとアッサリ倒せたりする」


「懐かしいわね……やったらやったで碌な素材も落とさなかったのが堪えたわ……」


 そう言って、何処か遠い目をするエリゼ。これは実践して全部焼け落としたパターンだな。

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