第758話

 大勢のプレイヤーや英霊達が揃ったことで、遂に残党軍との戦闘が始まることとなった。


 先鋒は既に動き出し、残党軍のアジトの出入り口がある二箇所に向かって進撃。プレイヤーと英霊達が入り乱れて、洞窟の中へと突き進んでいく。


「あの波なら、そう時間も掛からずに表に飛び出してくるだろうな」


「そうですね〜。ほら、もう出てきましたよ〜」


 フロリアと恋華がそう話している間にも、隠されていた正面の入口からどんどん武装した男達が、かなり慌てた様子でこちらに向かって駆け出していた。


 それを迎え撃つのは、有志を集めて結成した盾役プレイヤーの壁と、防御陣形で盾と槍を構えるスパルタ兵達。


 怒声と共に飛び出してきた残党軍に槍を突き出すスパルタ兵に合わせて、盾役プレイヤー達も盾で殴りつけるようにして残党軍を押し返す。


 そんな出鼻を挫かれたような残党軍の頭上から降り注ぐ、後方支援の弓射と魔法の嵐。


 弓兵達による一斉射撃は、慌てて飛び出したことで無防備な残党軍の兵士達を次々とハリネズミに変え、そして魔法がその身をズタズタに引き裂いていく。


 正面の戦いは完全に蹂躙。山地の洞窟ということで騎兵の出番は無いが、もしこれが平野部の野戦となったら、これに騎兵隊が加わることになる。


「この間のイベントの時だって手が付けられない程だったのに、まだ戦力を増やすか」


「これは私じゃなくてお姉の方が問題なんだって言ったじゃん!?」


 おのれユーリ。私が歌っているからと言いたいこと言いおってからに…………終わったら覚えておけよ。


 尚、私の歌声で戦場の士気はめちゃくちゃ高まっている。演奏はヒビキが担当しているし、ガイスターのスピーカーが更に高性能化したから、音響面の強化も凄まじい。


 結果、ただでさえ手が付けられない程の兵達が、より一層激しく苛烈に敵を攻め立てるようになってしまっていた。まぁ、帝国の人達だから別にいいか。


「うわ……一発で敵兵十人くらい持ってってない?」


「盾も貫いているな……流石為朝公と言うべきか」


 特にバフが掛かってそうなのは源為朝。常時でさえ小船を弓の一射で破壊していた強弓は、たった一本の矢で十人の兵士を貫通して射殺す超弓に進化を遂げていた。


 その音も凄まじく、敵兵に命中するとボンッという音と共に先頭の兵士の前面が衝撃と圧で潰れ、矢が貫通すれば後方の兵士が体を食い千切られるように矢に肉体を抉り取られる。


 それを十人近く行って、漸く矢は勢いを落としているのだ。多分、あの威力なら空を飛んでいるドラゴンも一発で落とせると思う。


「他のプレイヤーが全然目立ってないわね……色物枠が多い筈なのに目立たないって……」


「そんだけ英霊達のパワーがヤバいってことだろ」


 外でこの状態なのだから、洞窟内は相当ヤバいことになっていると思う。


 個人的には、ゴリアテがうっかり洞窟の柱とかを壊して崩落させないかどうかが心配になるが、いざとなったらカオスの力を使うだろうし、多分大丈夫だろう……大丈夫だよね?











 アマネの心配を他所に、洞窟内は残党軍との戦闘でかなりの激戦区へと変貌していた。


 残党が使っていたテーブルが蹴り飛ばされ、投げ飛ばされた椅子が両手剣の一閃で両断される。


「クソッ!!! なんでこんな僻地にこんな軍勢が集まってきてんだよッ!?」


 悪態をついた帝国兵が、空き瓶を投げつけてから剣を抜く。せめてもの抵抗として行ったそれは、呆気なく押し寄せる戦士の剣や槍によって完全に無に帰した。


 終戦後もジワジワと拡張を続けていたこの拠点は、言ってしまえば彼らにとっての監獄、或いは集団墓地へと変わりつつある。


 何せ、突入しているのは百戦錬磨の強者達。プレイヤー達も遅れないようについていってはいるが、それ以上に戦意の高まった英霊達が、禍根を一本たりとも残さんと根切りの構えで突撃しているのだ。


 一方で、最盛期から賊軍と呼ばれている帝国軍の兵士達の実力は烏合の衆。誰が指揮を執るのかで揉めているし、抗おうとする者や逃げようとする者が入り乱れて隊列さえまともに組めていない。


 そんな状態で押し寄せる英霊達とまともに戦えるわけがなく、残党軍の戦力は勢いを増してその総数を減らしていた。


「チッ! 雑兵ばっかでつまらねぇ手合しかいねぇじゃねぇかよ!」


『少しは手応えのある輩もいるかと思っていたんだがな……』


 ゴリアテとシグルドの剛剣が壁を削りつつ、次々と残党軍の兵士達を二つに両断していく。


 下っ端の雑兵など、二人からしたら巻藁を斬るのと大差無い。大剣使い故に周りの物まで巻き込んでいるが、それも何の障害にもなっていないのだ。


 壁に掛けられた小さな絵画を斬り、床に置かれた木箱や樽を斬り、備え付けられた扉を開けること無く斬り、そして扉の奥で待ち伏せていた敵も真っ二つにする。


 途中、壁を貫いて向こう側の敵を斬り裂いた事もあったようだが、ティルヴィングの斬れ味の良さが起こしたことなのか、それともゴリアテの馬鹿力が成し遂げたことなのかは不明。


 ただ言えることがあるとすれば、残党軍の居住空間は二人の剛の者によって見るも無惨な跡地へとビフォーアフターしていた。


『ハッハッハ! やっぱり切応えはないな!』


『こういうのは殴った方がいい!』


「ぶげッ!?」


 閉所故に片手剣を振るうディルムッド。残党軍の返り血に濡れるその姿は悪鬼と恐れられそうではあるが、周りにもその悪鬼に相当する人間が大勢いるのでそこまで大差無い。


 一方で、切応えが無いと言っていたスパルタクスは、両刃の片手剣で敵を斬りつつも、左手に持った円盾で敵の顔面を殴りつけて頭を砕いていた。


 その荒々しい一撃は強力で、横に殴られた敵兵は首の向きが回らない方向にまで回っていて、正面から殴られた敵兵は顔を潰された上で首が座らなくなっている。


 筋骨隆々の剣闘士に殴られればその結末も当然と言えば当然のこと。寧ろ、力加減をミスって胸を陥没させられている兵士と比べたら、高確率で即死出来ている頭組の方が楽に逝けている。


「おっと、ここで合流か!」


『どうやらそのようだな!』


 別の入口から突入していた部隊の面々が奥で戦っている姿を見て、ゴリアテとシグルドは戦う手を止めることなく前へ突き進み、左側の扉を蹴破って兵士が待ち構える広間へ突入する。


 遅れて他の英霊達が突入した時には、既にゴリアテとシグルドが広間にいる残党軍を相手に蹂躙していて、彼らが手を出す隙など一つもありはしなかった。


 何せ、身の丈を超える剛剣を使うゴリアテと、竜殺しのシグルドが大暴れしているのだ。迂闊に踏み込めば、逆に自分達が二人に斬られて殺されてしまう。




「『ハハハハハハハハハハハハッ!!!』」




 大きく笑いながら、ティルヴィングを振り回すゴリアテとグラムで雑兵を斬り払うシグルド。


 シグルドの出身はノルド寄りであり、ゴリアテもカオスの転生体とはいえ出身はノルドだ。二人の体の中には、ノルドのヴァイキングに似た狂戦士の血が確かに流れているようだった。


「……これ、俺等いらなくね?」


『取り敢えず、ここが最奥なのは間違い無いからな。今のうちに戦利品の運び出しをしておくか』


 その様子を見て気を落とすプレイヤー達。英霊達に従って戦利品の運び出しを始めるが、突入したのに他の英霊達が大半を片付けてしまったので、実は殆ど戦えていない。


 唯一まともに戦えていたのは、正面で飛び出してきた残党軍を迎え撃っていた盾役と遠距離プレイヤー達という、かなり残念な結果になってしまっていたのだ。


「しかもこれ、殆どゴミじゃねぇか……」


『まぁ、亡国の敗残兵共だからな。大半は下っ端も下っ端だろうし、値打ちモンがあったら大儲けくらいなもんだろ』


「この剣とか、今ならプレイヤーメイドで市場に並んでるヤツだぞ……うわ!? なんかパンツドロップしてるんだが!?」


『汚っ!? んなもん捨てろ! それかそこの松明使って燃やせ!』


 結局、英霊達もプレイヤー達も最後の方はのんびりと戦利品の整理と搬出作業で時間を使っていた。


 ちなみに、特徴的なプレイヤーは戦闘ではなくこの整理と搬出作業の時に英霊達に認識されるようになったようだ。





「……やっぱり呼ばなくてよかったかもな」


「後の祭りって言葉知ってる?」




 殆ど私のライブみたいなものだったから、ライブなのは変わらないと思う。

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