第733話
クランホームの前に出現した皇帝アドルフ。正気を失い、怪物として見境無く暴れる異形を前にして、ユーリ達は紙一重の戦いを繰り広げていた。
『オォォォォォォォォォッ!!!』
「あっぶなっ!? ちょ、ちゃんと盾役仕事してよ!?」
「無茶言うな!? あんなんまともに食らったら一発で御陀仏だわ!?」
やたらめったらに武器を振り回す皇帝の攻撃を、ギリギリのラインで回避するユーリ。
本来ならば盾役のエルメがヘイトの管理や敵の攻撃を釣ったりするのだが、今回ばかりはそれも出来そうにない。
異形の身体となった皇帝の火力が高過ぎて、そもそも攻撃を受けること自体が出来ないのだ。多分、今の装備で受ければ真っ二つにされて即退場になるだろう。
「今更だが、レベル差どうなってるんだ!?」
「ホントに今更ね!? てか、そんなの気にしてる余裕があるなら、一撃でも多く攻撃を叩き込みなさいよ!!!」
フロリアの今更な言葉を一蹴しつつ、兎に角攻撃しろとツッコむルテラ。ユーリで鍛えられたツッコミのテクニックは未だに健在のようだ。
尤も、皇帝の攻撃を鑑みると無理な突撃も推奨は出来ない。死に戻りできるプレイヤーの強みも、ハッキリ言って皇帝相手にどれだけ効くかどうかといったレベル。
一応、クランホームで復活することも出来るのでユーリ達は問題無いのだが、クランの面子ではないフロリアやエリゼは死んだら近くの街からまたここまで走ってこないといけなくなる。
「思うように撃ちまくれないのが不満ですわね……」
「いや、その割に十六連射くらいしてない?」
「これでも比較的抑えてる方ですのよ」
トリガーハッピーで有名なエリゼが魔法を乱射しているけど、二十や三十くらい皇帝に当てておいて不満ってどういう事なんだろうか……
いや、普段のトリガーハッピー具合を考慮すれば、これでも確かに抑えている方ではあるのか。
「ルテラは真似しないの?」
「私はどっちかと言ったら一撃必殺型よ!」
そう言って、ドカンと一発ブチかますルテラ。巨大な火球は皇帝の剣に当たって防がれたけど、ダメージ量的には防御してても中々のようだ。
とはいえ、近接攻撃に関しては接近が危険過ぎて、皇帝相手に回避タンクを徹底するくらいでしか貢献が出来ていない。
「おっと、危ないですね」
「幾ら神とは言え、コイツの攻撃は当たったら危険なのか?」
「いえ、この正装が汚れてしまうのでね……」
尤も、ニャルとガリアに関しては例外で、当たったらヤバそうな皇帝の攻撃の隙を掻い潜って拳を打ち込むガリアと、パリィしながらカウンターで斬り裂くニャルという凄い構図になっている。
勿論、私も二人に負けないくらいには皇帝の攻撃の隙を狙って剣を当てているけれど、回避タンクとしてなら二人の方が圧倒的に上だ。
ただ、そんな二人の攻撃を食らっておきながら、依然として弱る気配も見せず、寧ろどんどん元気に発狂していく皇帝が異常過ぎる。
「ダメージは入ってるんだよな?」
「入ってる。でも、素のステータスとか体力が高過ぎて誤差なのかも」
「あの二人の攻撃で誤差程度というのも驚きですけどね〜」
クトゥルフ系で超有名な神様と、人型とはいえ守護龍という超強い竜の攻撃を食らっておきながら暴れられるのだから、皇帝の強さがその見た目相応になっているとわかる。
というか、お姉がきっかけで起きたこの戦争だけど、もしかして本来ならば私達だけでこの異形の皇帝を倒さなきゃいけなかったのかな?
「ん。触手は柔らかい」
「筋肉モリモリでめちゃくちゃ硬いからなぁ……」
攻撃の大半は皇帝の筋肉……筋肉でいいんだよね? 兎に角、身体が硬いのであんまりダメージが通ってるように思えない。
ただ、ウニョウニョしながら毒液を垂らしている触手は柔らかいみたいで、弓月の矢やルテラとエリゼの魔法が結構効いている。
……まぁ、近接特化の私には触手に攻撃なんて無理な話なんだけどね。ニャルはちょくちょく斬り落としてるけど。
尚、その触手は斬り落とされても暫くの間はビチビチと跳ね回るし、暫くすれば切断面からニュルリと再生して新しい触手が生えてくる。
「アレ、何本くらい斬ったら再生しなくなるのかな?」
「死ぬまで生える……いや、それは無いか」
多分、触手の再生にも何かしらのコストというか、代償を支払ってる筈なんだよね。でないと、彼処だけ柔らかいのも若干不自然だし。
考えられるのはMPのような何かを使っていて、ある程度減ると今度はHPが減る、みたいな仕様とか?
「――――お! やってるやってる!!!」
「皇帝の見た目グロ過ぎィ!?」
「ミュータント皇帝ヤベェな!?」
と、そんな事を考えていたら、第二の街から大勢のプレイヤー達が次々と姿を現し始める。
「こんな大ボス相手に不参加はナンセンスっスよ〜!!!」
「……そう言えば、柚餅子は情報組のクランホームで情報整理をしていたんだったな」
「え、もしかしてワザと呼んでなかったんじゃなかったんですの!?」
情報組のリーダー、柚餅子が総指揮を取っているようだが、私も柚餅子がいると騒がしくなるから呼んでなかったんだと思っていた。
いや、別に居ても悪くはないんだけどさ。多分、矢継ぎ早に色々と聞き出そうとしてくるから、逆に話が進まなくなりそうなんだよね。
とはいえ、プレイヤー達が援軍として参戦してくれたのはかなりの好機。個々の実力は皇帝の攻撃で一蹴されてしまう程度だけど、数が集まればそれだけでも皇帝のヘイトを集められる。
「……めちゃくちゃ硬くて攻撃通んないんですけど!?」
「あ、背中の触手はめちゃくちゃ柔らかいぞ!!!」
「よっしゃ! 背中狙え背中!!!」
「ギャッ!?」
「ちょ、盾役が盾役出来てない!?」
プレイヤーの参戦であっと言う間に騒がしくなる戦場。皇帝の攻撃で吹き飛んでいるし、大半の攻撃は豆鉄砲か爪楊枝レベルのダメージしか与えていないけど、数が増えた事で皇帝が攻撃対象をプレイヤー達に変更している。
「ん!!! 今こそ好機!!! 偶像部隊、効果発動!!!」
「うぉ!? なんかスゲェ量のバフが!?」
「よっしゃ! このままボコれ!!!」
更に、弓月の号令で一斉に効果を発動させる偶像部隊。多種多様なバフが範囲内の味方全てに付与され、皇帝には大量のデバフが一気に付与される。
これにより、更に私達は皇帝に対してアドバンテージを獲得。プレイヤーに関しては豆鉄砲から輪ゴム鉄砲くらいの強化に留まっているけど、未だに前線で戦うニャルとガリアはより一層強くなった。
――――コケェェェェェェェェェェェェッ!!!
『――――グガッ!?』
「おぉ!? ニワトリキック!?」
「ニワトリめっちゃ強ェェェェ!!!」
そして、このタイミングで大量のニワトリ達が乱入してきたが、なんとこのニワトリ達も皇帝に対して攻撃を仕掛けている。
プレイヤーのサポートをする個体や、皇帝に特攻を仕掛ける個体もいるが、一番凄いのは群れのリーダーらしき赤いニワトリ。
蹴爪や嘴に炎を纏いながら、空を蹴って皇帝の顔の周りを重点的に蹴りまくり、鋭い嘴で突っつき回している。
「……急いで来たけど、私の出番はあるよね?」
「クイナ! 作戦名は命大事に! だからね!」
「プレイヤーは『面白可笑しく』だがな」
援軍として駆けつけてきたクイナも、プレイヤーとニワトリが皇帝を囲んで殴りまくる光景にちょっと呆れている。
…………取り敢えず、クイナには死なない事をメインに頑張ってもらおっか。
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