第732話
ゼウスの力は、数多の神々を単騎で相手取れる程に強化され、居並ぶ強者達が次々と薙ぎ倒されていく。
黒き雷槍はゼウスが生み出せる得物であるが故に、槍の形ではなく腕に纏わせていたり剣のような形にしていたりと、兎に角ゼウスの望む形に変化させて荒れ狂っていた。
『ゴルァァァァァァァァァァッ!!!』
『――――喧しいぞ、北のヘビ』
怒声のような咆哮と共に噛みつきにいったヨルムンガンドが、脳天にゼウスの拳を受けて一瞬意識を奪われ、追撃として両手で頭を掴まれた上での膝蹴りを喉元に打ち込まれる。
これだけでも大ダメージを受けたヨルムンガンドであるが、その長い蛇体を軽々と持ち上げたゼウスに、擬似的な武器として振り回され、適当な方向へ投げ飛ばされた。
多くの神々が弾き飛ばされた中、投げ飛ばした隙を狙って突貫するジズ。風を纏い、ゼウスの放つ雷を散らしながら雲を突き破って進むジズは、その嘴を開いて太陽の如き光球を射出する。
だが、飛んできた光球に対しゼウスは人差し指一本でそれを貫き、そのまま指の先端から放った雷撃でジズの身体を貫く。
『……っと、こりゃちっとばかしアッチぃな』
ただ、指に刺さった光球は太陽と同レベルの熱量を有していたらしく、手をパタパタと動かして指に溜まった熱を逃がそうとしていた。
そんなゼウスの背後から斬り掛かるスサノオ。しかし、振り返り雷槍を振り抜いたゼウスは、スサノオの持つ十拳剣にヒビを入れ、その体を打って大地に吹き飛ばして埋め込んだ。
クトゥルフの槍杖の刺突も、半ば程を右手で掴み取って止めた上での左ハイキックでカウンターしているし、そのままへし折った槍杖の先端部はクトゥグァに投げられた。
『ウォォォォォォォォォォッ!!!』
『だからうるせえってぇのッ!!!』
剣を振り上げて接近するプロメテウスが右の拳で顔面を殴り倒され、その勢いで追従していたエピメテウスの顎を蹴り上げる。
更に回し蹴りでエピメテウスの体をくの字に折りながら蹴っ飛ばすと、握り拳に雷を纏わせた上で地面にアームハンマーを落とし、周囲に集ろうとした細々とした神々を拡散する雷で撃ち落としていく。
『――――オォォォォォォォォォッ!!!』
『グォッ!?』
そんなゼウスに強力な一打を叩き込んだのは、魔大陸から足を運んだタネ・マフタ。
地面から生えた蔦がゼウスの足を止め、動きを僅かに鈍らせた瞬間、振り返ろうとしていたゼウスの横っ面に樹木の拳で殴りつけたのである。
そこからは息さえさせぬ程のラッシュ。両手の拳で何度も何度もゼウスを殴り、黒い鎧にすら凹みを作り始めていく。
だが、ゼウスが殴られたままでいるわけがない。全身からバチバチと放電し、瞬間的に視界を覆い尽くす程の黒雷がゼウスの体を包み込む。
『――――やってくれたなぁ、オイ』
『ガッ!?』
その光に軽く目を細めたタネ・マフタは、顔面をゼウスに掴まれ、そのまま頭から地面に叩きつけられて倒れ込む。
それだけでもかなりの攻撃であるのに、そのまま地面に向かって何度も何度もタネ・マフタの頭を叩きつけ、その度にタネ・マフタの枝葉や樹皮が飛び散る。
『落ちろッ!!! 天岩戸ッ!!!』
アマテラスの声と共に空から再び落ちてくる、巨大な岩盤のような大岩。注連縄も少しばかりボロボロになっているが、直撃すればその威力は計り知れない。
だが、ゼウスは落ちてくる天岩戸を視認すると、掴んでいた右手を離して握り拳を作り、天岩戸の下面に対して剛拳を放つ。
――――そして直撃した瞬間、縦に真っ二つに割れる天岩戸。
アマテラスの玄関扉は、ゼウスの拳を受けて瓦を割るようなレベルで綺麗に割れた。更には、その欠片も殴られた衝撃で吹き飛び、散弾となって空を舞っている。
それにギョッとしたアマテラス。慌てて回避すると同時に、ゼウスの目を奪おうと光球を投げつけてその場を離れる。
『ちゃちい奴らが鬱陶しいなぁ……』
『ゴッ!?』
それを鬱陶しそうに左手で払うゼウス。背後から迫っていたヴリトラの顔面にはゼウスの右の裏拳が放たれ、ヴリトラの動きが一瞬鈍る。
そこに、振り返ると同時に放たれた大振りのパンチが炸裂。ヴリトラは額から血を吹き出しながら吹き飛んでいき、奥の山の斜面に全身を突き刺して気を失った。
『――――ゼェェェェェェェェウス!!!』
『――――うぉっ!? オメェは……!』
そんな無双するゼウスの頬に傷を付けたのは、遠方から突貫して剣を振り抜いたルシファー。
その背中には三対の白い翼を広げ、嘗て四大天使として名を轟かせていた頃の白銀の鎧を身に纏って、嘗ての主君を討ち取ろうと戦場に降り立っていた。
『ゼウス!!! このルシファーの名を忘れたわけではないだろうな!!!』
『あぁ!!! よぉく覚えてるぜ!!! メタトロンをぶっ殺して、天界から逃走した裏切りモンの名前はよぉ!!!』
そう言って、指先に纏わせた雷から無数の雷の矢を放つゼウス。
まるで豪雨のように隙間無く放たれたそれを、ルシファーは己の得物である長いサーベルで次々と斬り裂き、徐々にゼウスの下へ行く道を切り開く。
『余所見とは余裕だなぁ!!!』
『喧しいぞ、死に損ないがァッ!!!』
ルシファーに集中するゼウスの背後から迫るテュポーン。トライデントを振り被って、ゼウスの後頭部にその穂先を叩き込もうとしていたが、振り返ったゼウスの手刀がトライデントを半ばから斬り裂く。
そして、そのままテュポーンの顔面に右の拳を叩き込み、たたらを踏んで晒された無防備な腹には左のフックが突き刺さる。
『ウォォォォォォォッ!!!』
テュポーンが攻撃を受けて後ろに倒れようとする中で、マルドゥクがマルンを振り被ってゼウスに振り下ろして、その頭を砕こうと試みる。
『しゃらくせぇ!!!』
だが、ゼウスはマルンの刃を避けると、そのまま真ん中辺りに蹴りを入れてへし折り、右のハイキックでマルドゥクの側頭部を強打。
よろめいたマルドゥクを押し倒した上でマウントポジションを取り、顔面を右左と何度も何度も両手の拳で殴りつける。
一打二打と打つ度に雷の迸る拳に打たれ、マルドゥクの顔からは血が噴き出し、目は白目をむいて切れた内側から血の涙を滴らせた。
『キィァァァァァァァァァッ!!!』
『うっせぇわ、ボケェッ!!!』
猿叫と共に接近するチェルノボグが、黒雷を纏った拳に殴り飛ばされ、彼方の方向へ吹き飛ばされる。
だが、それがゼウスに隙を生み、神速の弾丸がゼウスの右肩の鎧を穿って吹き飛ばした。
撃ったのは、レールガンを構えたアベルとカイン。アベルが照準を合わせ、カインがエネルギーを注ぎ込んだその狙撃は、ゼウスに危機感を抱かせるには充分な一撃であった。
瞬く間にマルドゥクの上から二人の前に移動したゼウスは、構えていたレールガンを叩き潰し、二人に向かって右拳を打ち込もうとする。
その瞬間、二人の手で張られる障壁。幾つもの六角形のハニカム構造で作られた六枚のシールドの内、四枚程が即座に割られ、五枚目は貫通し、六枚目はヒビ割れて僅かにゼウスの指を通していた。
だが、ニヤリと笑ったゼウスはその拳の先から黒雷を放ち、障壁諸共アベルとカインの二人を雷で吹き飛ばす。
地面を転がった二人は、全身から煙を吹き出しながらビクビクと痙攣した。ゼウスの雷を受けて、全身の筋肉が麻痺したようだ。
『――――テメェも知ってんだよ、アバドン』
そして、背後から気配を消して迫っていたアバドンに、ケラウノスを纏わせた拳を振り抜くゼウス。
バチンと大きく弾ける音と共に、煙を纏った小さな何かが、彼方の山の方向へ飛んでいく。
『さぁ!!! 俺はまだまだ元気だぜェ?』
――――ゼウスの闘争は終わらない。己に歯向かう全てを滅ぼすまで、その悪意と狂気は収まらない。
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